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「俺がおまえとミクの目の前でミクとつきあう気はないと見せたら、おまえがキレた」
キレそうだな、確かに。
「それで?」
「おまえならどうすると思う?」
「キレたあと?…状況によるけどミク連れて帰るかも。おまえのことはもう諦めろとでも言いそう」
「連れて帰った。当たってる。俺を諦める…のは違うだろ。ミクは誰でもいいんだから」
隆太はとことんミクを軽い女だと見まくっている。
いや、軽いことは軽い。
相手にしてもらえないと、すぐに他の男に寄りかかるし。
けど…、違う。
「おまえには理解できないだろうけど、ミクはおまえに本気。じゃなかったら、俺はミクと別れていなかった」
ミクがそれを理由に別れるなんて言うこともなかった。
ミクなら飽きたのなら飽きたと言うだろう。
重くならないように軽く言われてムカついたけど。
それはミクなりの配慮だ。
俺のことを嫌いになったわけではないと見せるため。
「別れた女のことをそうやって気にしてやってるから、トモちゃんとうまくやれないんじゃないのか?」
隆太はどこか話題を替えやがる。
お互いにふれられたくない話題から逃げていると思われる。
俺はビールを飲み終わるとワインを頼む。
「俺にはおまえみたいに誰かに本気になってもらえるものがない」
「本気かどうかなんて本人にしかわからないものだろ。本人にもわからないかもしれない。その時、その一瞬は確かに本気でも、常に全力投球なんてしていられない。疲れる。常に全力投球のつきあいなんてしないほうがいい。疲れて終わるのも早い」
全力投球のつきあいをしたことがあるような言い方だ。
隆太のつきあいにそんなものあったかなと考える。
…なかったと思う。
けど、疲れて終わった隆太の恋愛、俺が思い当たるのは一つだけ。
「千香との恋愛、まだ忘れてないのか?」
「……おまえ、その名前、高校の時に禁句にしたの忘れたか?トモちゃんをチカと呼んでるだけなら許してやろう」
「禁句にするほど未練タラタラだったってことだろ?」
「黙れ。あっちが言うから受け入れるしかなかったんだっ。おまえも去る者追ってないだろっ」
「俺が別れた女ははっきりと理由を告げてくれて、それを俺がどうにかできるものでもないから追えないだけ。俺がどうにかできるものなら追う。簡単には諦めない」
「どうにかできないこと多すぎないか?」
図星を言われて本気で隆太を殴りたくなった。
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