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「晃佑、起きて」
知花は隆太から逃れるかのように、俺を起こしにかかってきた。
眠ったふりを続けて、隆太が聞き出す知花の言葉を聞きたい気もする。
けど、言われて…泣くのは俺だと思う。
「……いや」
俺ははっきりと答えて、知花の腰をぎゅうっと抱く。
今は…まだここにいる。
その言葉は聞きたくない。
「起きていたのか。俺の前で女といちゃつくな」
「シラフじゃなけりゃ、おまえの前で知花は俺のだとセックス見せつけてやるところなのに」
俺は顔を上げて視線を隆太に向けて言ってやる。
知花にどういう理由であれ、奪われたいと言われた隆太に嫉妬。
「おまえのほうがモテまくりのくせに俺に妬くな。しかも俺が手をつけたのはミクだけ。あとはキスもしていない」
それが余計にタチが悪いのだと隆太は思ってもいないようだ。
誰にでも手を出している男ならよかったのにと思う。
「手をつけておきながら振るから…」
「悪いな。俺はその場だけの浮気で終わるつもりだった。尻が軽いのは興味ない」
おまえが誘われてノッたくせに、相手を尻軽と蔑むなと、また怒りそうになる。
おまえの非がどこにもないわけじゃないっ!
手を出したんなら、最後まで責任とれっ!
そのミクの気持ちを受け取れないなら、最初から手を出すな、ボケ!
なんて、知花の前ではさすがに言えず。
俺は知花の膝から起き上がると隆太に蹴りかかる。
隆太は避けて俺に蹴りかかってきて。
俺はその足をかわして、また蹴りかかる。
ひたすら蹴り合ってた。
俺が何度も言っていることをいい加減わかって受け止めろと言いたい。
隆太が反撃してくるということは、自分が正しいという位置から動きたくないわけで。
俺は力で捩じ伏せて言うことをきかせたいわけでもない。
本気で拳を使う喧嘩をすれば俺のほうが勝つと思う。
…勝ちたいわけじゃない。
ミクにフラれたのは俺で。
ミクはおまえに惚れた。
それだけのことを受け入れさせるのがひどく困難。
俺は隆太の脛を狙って蹴りを入れて、隆太はその手で押さえようとしてきたけど、その手は止まった。
俺の足は隆太の脛に入って、隆太は痛がって反撃をやめた。
わざと蹴られやがった。
俺がやめないから。
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