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「寝不足。寝る。勝手に帰れ」
隆太は知花も部屋の隅に移動して空いたベッドに倒れ込む。
今更だが、ここは隆太の家だったようで。
どうやら俺は隆太の寝場所を知花と占領していたらしい。
隆太がまったく俺のことを何も考えてくれないやつでもなく。
どちらかというと、俺のことを気にかけてくれるやつで。
だから…認めていないことはない。
知花の言ったとおり、俺は隆太を認めているから、自分が惚れた女が隆太に惚れたとなっても、引き留める言葉は持てない。
隆太のほうがいいつきあいができるかもしれないと、俺より満足させてやれるかもしれないと、俺の手を放されて追うことはない。
ないけれど、その先で隆太は俺の彼女だった女とつきあうことは今まで絶対になかった。
手を出したこともなかった。
けれどミクには手を出した。
ノリだけで隆太が女に手を出す男とは思わない。
思わないけど、隆太はつきあわない。
俺は隆太の元カノとつきあったこともあるけど。
隆太を振って俺に転がってきたから受け入れたことはあるけど。
俺には隆太のすべてを理解はしてやれない。
「…知花なら…つきあうのか?」
俺はベッドに転がる隆太に声をかける。
「それってトモちゃん疑ってるのか?」
隆太はそんなふうに俺を見上げて聞き返した。
そういう意味ではないけど。
そういう意味にとられても仕方ない。
俺は俺と隆太を見ている知花へ視線を移す。
疑うとか、疑わないとか…、そういうんじゃなくて。
もしも知花が隆太に惚れたから別れるとでも言ってくれた時に、俺はミクのように簡単に受け入れていいのかわからない。
また隆太が受け入れなかったら、泣くのは女。
幸せになるのなら、痛くても苦しくても手を放してやれるけど。
泣かせるために手を放したくはない。
「帰ろ?知花」
俺は知花に手を差し出して。
知花は俺の手にふれて立ち上がった。
その手を引いて、俺は隆太に何か言葉を残してやることもなく、知花と暮らす自分の家へと帰る。
薄くても恋愛はいくつかしてきた。
別れる前の空気はなんとなく同じような気がする。
追って…いたいけど。
放したくはないけど。
捨てられるのは俺だ。
捨てられて、それでも求めたい気持ちも、友達という言葉で区切られる。
同じパターンは懲り懲りだ。
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