Desertion

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置いていかれるのは俺ばかり。 信じてもらえないのは俺だ。 俺は知花の後ろ髪を引っ張って顎をあげさせて、その唇を唇に刻むようにキスをする。 どれだけ求めていれば、俺の気持ちは相手に伝わるのだろう? 俺の態度はそんなに薄い愛情しかないように見えるのだろうか? 友達なんてできるはずがない。 相手には伝わらない。 俺は知花の手を離して、その体を押さえつけるように上に乗って、額を押さえて…。 なんか犯しながらのキス。 唇を離すと俺の唇からは吐息がこぼれて、知花の唇からも吐息がこぼれた。 「……やっぱり酔ってる?」 目を閉じたまま知花は聞く。 「飲んでないっ。酒のニオイする?」 「しない。いつもより強引。優しくない。酔っ払い晃佑みたい」 酔っ払っている間のことは本気で何もわからないけど、優しくないらしい。 知花とつきあって潰れるくらい飲んだのは2回だけ。 その間に俺は知花に嫌われることでもしたのかもしれない。 「……記憶ない間の俺の行動も言葉も忘れてくれ。そこに責任持てない。知らないとしか言い様がない」 「別に酔っ払い晃佑にひどいことされてないよ?」 「首絞めたって…」 それ以上にも、もっと何か仕出かしたのかもしれない。 泣きそう。 「嫉妬してくれたこと忘れたくない」 「嫉妬なんて酔ってなくてもしてるだろ」 「加藤くんが相手じゃなければ嫉妬しなさそう」 それはどういう意味だ? 俺のこと…信じられないって意味? 俺の気持ちを信じられないという意味? 「……何が言いたい?」 聞くと、知花はその目を開けて、俺の目をまっすぐに見てくる。 俺もただその目を見つめ返した。 知花の両手は俺の後ろ頭にふれる。 「好き?」 「……おまえは?…好きって言って」 「………嫌い」 知花は答えて、俺の背中に手を当てて、しがみつくように抱きついた。 不安からまた甘えてしまったことに気がついた。 「…ごめん。好き。……好きって言って」 俺は言い直した。 「……もっと感情込めて言って。………嘘。もういいよ、晃佑。謝ってばかりだと疲れちゃうでしょ?」 もういいよ。 疲れるでしょ? 好きも言ってくれない。 その言葉の続きは聞きたくなくて。 俺は知花の言葉を止めるように、その目を隠して俺から引き離してキスで唇を塞ぐ。 知花は逃げようと頭を動かして、俺はその頭を押さえつける。 言わないでくれ。 聞きたくない。
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