Desertion

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俺はそんなに強くない。 フラれ続けたモノは言葉にすることもできずに俺の中に溜まって、睡眠障害なんてものを引き起こしてる。 愛されたいと思うのは、おまえより俺だ。 別れたくないのは俺だ。 「……大丈夫…だから」 「しゃべんな。キスだけでいい」 俺は知花の言葉を止めるように、ひたすらキスで唇を塞いでいた。 知花の手は俺の頭を撫でて。 知花が俺に見せる表情を瞼の裏に思う。 もう、決めた顔。 俺が傷つくことは考えていない。 どこまで傷つくのかなんてわかっていない。 俺は息をつくように長いキスから知花の唇を離す。 俺の頬を雫が垂れる。 少しくらい…俺の気持ちも考えてくれ。 今までをすべて嘘にする言葉は欲しくない。 俺は…惚れてる。 知花の目を隠していた手をずらして、その頬に手を当てる。 知花はその目を開けて俺を見て、俺が泣いているのを見ると、その指先で雫を拭う。 「私はきっとずっと晃佑しか好きになれない」 俺は別れの言葉を告げられると思っていたのに、知花はそんな言葉をくれた。 思いがけないものに俺の涙は止まって。 泣いたことがかなり恥ずかしくなった。 「だったら別れるような空気つくんなっ。あーっ。くそっ。また泣かされた」 俺は知花から顔を逸らして、鼻をすすって手の甲で目元を濡らすものを拭う。 「好きって言ってあげたのに笑ってくれないの?」 「おまえが俺に惚れてくれていることはよく知ってる。わかってる」 俺は強気に言ってやる。 「私にとっては初めての恋愛だけど、晃佑にとっては繰り返した恋愛ごっこ。 もうやめよう?」 知花はそんな言葉を俺にくれた。 真っ白になった。 沈ませて浮かせて沈ませる。 何を考えていいのかわからない。 惚れてる…のに? 別れるって言われるのは俺? 氷ったように動けなかった。 指先だけが震える。 「私に合わせてくれなくてもいい。責任を感じてくれなくてもいい。……大丈夫だよ。私はあなたと離れてもちゃんと生きていける。 友達にはなりたくない。友達以上の気持ちをもって友達なんてできそうにない。だから……元カノとしてはみてね?」 どこかで聞いたような言葉にも思える。 友達に戻りましょうと変わらない言葉だ。 俺の気持ちを一つも汲んでいない。 俺は知花から離れるように体を起こして、知花から顔を背ける。
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