Dearest

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眠れるはずもないまま夜が明ける。 俺は知花のいない一日目を始める。 わかってはいたけど、別れを告げられたばかりの時の衝撃はなんとも言えない。 貫かれたとでも言えばいいのか。 本気で何も考えられなくて、グラグラになった。 けれど、理由が理由ではない。 信じさせることが俺にできなかったから悪いとも言えるけど。 俺はわかりましたなんて言っていないし、別れるつもりも別れたつもりもない。 その程度で知花と続けることを諦めたりしない。 一度は逃がす。 けど、追いかける。 振り向かせる。 冷めたわけでもない二人だけの問題なら、どうにかできることだ。 とは思っていても。 俺がいない間に知花は俺の部屋に荷物を取りに来て、俺の部屋から知花の荷物は徐々に消えていく。 それにいい気はまったくしない。 しないが、今すぐに取り戻そうと動いても、知花は俺を信じていないし、足掻くのは無駄とも思える。 すべてが落ち着いてから動き出してやろうと思っていたら。 ミクから電話がかかってきた。 メールもしてこなくなったと思っていたのに。 俺は知花もいないし、部屋でその電話に出てやりながら、自分の食事を作る。 5ヶ月、自炊を知花としてきた。 作れるようになった。 『コウちゃん、かまって』 ミクの電話はそんなもの。 「また誰かに寄りかかろうとしてフラれたのか?寄りかかるのはいいけど、あんまり体を安売りすんなよ」 『…体を差し出したほうが一緒にいてくれるもん』 「ダメ。そんなことしているから本命に軽い女だと見られるんだろうが」 『……リュウちゃんのことはもういいのっ。コウちゃんが酔ってるときに、あんな奴もう諦めろって言った』 「1年以上片思いして、そう簡単に区切れるのか?」 『…コウちゃん嫌い』 「俺もおまえ嫌い。俺はおまえと連れをするつもりはない。そういえばおまえに渡したはずのピアス戻ってるけど」 『持ってきてくれたら今度は受け取ってあげてもいい』 なんだ?この高飛車。 俺は携帯を一度見て、手元の自分の食事のほうを見る。 野菜炒めのために野菜を刻み中。 片手でできたものじゃない。 肩と耳に携帯を挟む。 「持っていってやってもいいけど。家にいけばいいのか?」 『デートもしてくれなきゃいや』 「……もうゴミ箱に捨てておく」 『だめっ』 呼び出される道具にされている気がしてきた。
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