Dearest

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どこかの店に入ることもなく、夜の町をぶらついて。 川原の道を歩いて。 ミクは歩き疲れたらしく、ベンチに座ってヒールの足を撫でる。 俺はそんなミクの前にピアスケースを差し出して、ミクはそれを受け取った。 「…コウちゃんと戻りたい」 なんて俺の顔を見上げて言ってくれる。 「隆太のことは?」 「だってリュウちゃん、本気で割り切ってくれているもん。コウちゃんと会うって言っても、嫉妬もしてくれない。無理だよ。…愛されてるのって女にとって一番の幸せかも」 「ちょっと違うんじゃないか?本当に好きな人に出会って、その人に愛されて愛することが幸せ」 なんにも思っていない相手に愛されても気持ちを返せないし。 本当に自分が愛せる人に出会えることから幸せかもしれない。 ミクは何も答えず、無言の時間を持て余すように、手の中のケースを開けた。 「……なんか違うの入ってるよ?」 言われてケースの中を見てみると、知花に最初にプレゼントしたサファイアのピアスが入っていた。 なくしたとか言っていたくせにっ。 あっの嘘つきっ! 俺はそのピアスをとって、一つを右耳のあいたままの場所につけてやる。 もう一つはポケットの中に転がす。 「ピアス交換してくれるのかと思ったのに。…ま、いいや」 ミクはケースから赤いピアスを手にとると、立ち上がり、何をするのかと思ったら川に向かって投げ捨てた。 いくら知花でも二度と拾えないところに捨てられたと思う。 「…リュウちゃんのばか野郎っ!」 なんてミクは叫んでる。 ケースも川に投げ捨てて、知花が気にするものはミクがその手で処分した。 川に向かったまま、俺に背を向けたまま、ミクはしばらく動かず。 その手が涙を拭うように動く。 「…聞くくらいしてやろうか?」 「……コウちゃんとつきあっていればよかった」 涙声でミクは言う。 「俺は他の男に惚れて傷ついて泣いている、俺を振った元カノを慰めるほど優しくない」 「……優しいよ。一緒にいてくれる。体の代償求めることなく一緒にいてくれる。私がコウちゃんを傷つけたのに」 代償…。 そんなもの欲しくない。 ただ…一度は惚れた女だから。 幸せだと笑ってほしいと思う。
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