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「……隆太、おまえ、今どこ?」
俺はなるべく冷静に聞いてやったつもりだ。
『S町のコインパーキング横。……嫉妬しすぎだろ』
そのコインパーキングは知っている。
隆太と共通の連れの家の近くだ。
俺は携帯をハンディフォンに切り替えて着替えて家を出る準備。
「俺の女に手を出すんじゃねぇって何回言えばわかるんだよっ?」
『もうフラれて別れた相手だろ?……ま、妬かせたくて電話したのは俺だけどな』
俺を思いきり挑発してくれていると思う。
キレてもいいと思う。
こんな連れいらないと思う。
「……コンクリ漬けにして海に投げ捨ててやる」
俺は本気で言ってやりながら、通話は切らないようにしておくため、バイクを運転していても話せるようにイヤホンマイクを取りつける。
通話を切ったら更に何を仕出かすかわからない。
隆太は油断できない。
俺は隆太に彼女を奪われ過ぎている。
知花まで奪われる。
俺の彼女になった女の別れの理由が、隆太に惚れたという率が本気で高すぎる。
俺は用意を済ませると足早に家を出て、玄関の鍵をかけて駐輪場へ。
『暴れないの、トモちゃん。おとなしくしていれば何もしないって』
なんていう隆太の声が向こうから聞こえてくる。
暴れる?
「って、嫌がられてんのかよ」
俺は少しだけ安心しながら、単車に跨がって、即隆太たちのところへ向かう。
俺も少し運転に集中して無言になって。
電話の向こうも何も聞こえなくて。
警察に張られていたら捕まりそうな速度で飛ばす。
夜中の信号なんてなくなってしまえばいいと思いながら信号待ち。
『…俺の股間のほうがやばいかも?』
なんていう隆太の声が不意に聞こえてきた。
「ちょっと待て。おまえ、今の間に何をした?」
なんで股間?
『……なんもしてない。気のせいだ』
隆太はごまかしやがる。
いや、何かはしたはずだ。
その場に飛んでいけないのがかなりもどかしい。
かなり挑発されておびき寄せられている。
ムカつく。
「今度こそ本気で奪うつもりだろ?機会狙ってないか?……俺が取り戻すんじゃ、ボケっ!」
俺は隆太に向かって叫んでやると、青信号を見て飛ばした。
ギアを入れ替えて捕まったら罰金どころか免取になりそうな速度。
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