Dearest

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知花が隆太に落ちていたら…何を言おうか? 隆太には拳でじゅうぶんだけど…、ここまで飛んできた俺はかなりのマヌケになる。 ただの邪魔者だ。 別れの言葉は知花からもうすでにもらっている。 だけど。 知花は俺にその手を伸ばしてきて。 その顔は甘えるように俺を求めてくれていて。 俺はエンジンかけっぱなしの単車からおりると、その手が表情が望んでくれるままに、その背中を抱きしめた。 知花はどこか怯えて俺にしがみつくように抱きついてくる。 何かがかなりおかしい。 取り戻すつもりできたことはきたけど。 隆太に奪われていたらとは考えたけど。 知花から俺を求めてくれるとは思ってもみなかった。 怯えていた知花は俺の腕の中で少しずつ落ち着いていく。 「……おまえ、知花に何した?」 そこにいる傍観者になっていた隆太に聞いてみた。 知花に聞いてもいいけど、知花はその感情をあまり見せないし、言いそうにない。 「耳にキスしただけで特には何も。それだけでそこまで嫌がられるのもかなり微妙な心境。噛まれるし」 噛まれたらしい。 知花が軽くないのか、隆太が失敗したのか謎だ。 隆太に失敗は少ない気がするけど。 「まぁ、これで元サヤでいいんじゃないか?おまえの腕の中に戻ってるみたいだし」 隆太にも痴話喧嘩扱いをされていたようだ。 軽く、めでたしめでたしと言わんばかりに言ってくれる。 「…まぁ、おまえに惚れたってミクみたいに言われるよりは…。いや、だけど…。電話、挑発しすぎだろっ」 「挑発したのは最初だけで、あとは本音のつもりだけど?おまえがトモちゃんを諦めていて、トモちゃんがおまえを諦めたら俺を薦めるつもりではあったし。まぁ、順序まちがって先に嫌われたみたいだな」 やっぱり本気で落としにかかろうとしていたらしい。 それでも失敗したらしい。 知花は俺に更にしがみついてくる。 かなり微妙だ。 うれしいけどうれしいとは言えない。 おまえ、隆太に揺らされて怯えたんじゃないか?と疑う。 隆太に言ってやるつもりはないけど。 知花から別れると言ったはずなのに、これはおかしい。 おかしいが、疑う言葉を口にしたくない。 これで戻ったはずなのにまた喧嘩になる。 「……殴り飛ばすつもりできたのに的がはずされた気がする」 「そこ、残念そうに言うな。トモちゃんにフラれてるのは俺だ。 …先に帰るわ。あとはお若いお二人で」
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