Dearest

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俺は惚れているから。 そんな言葉を知花にも隆太にも言えないけど。 もしも言ったとしても、疑っているとか軽いとか、そういうふうに思われるかもしれないけど。 惚れているから、俺に縛りつけることより、自由に自分の本当の幸せを見つけてくれることを望む。 知花は隆太の車からおりて、家に入らずにそこにいた。 俺は知花の近くに単車を停める。 メットのグラス越しにその顔を見つめる。 「仕事までの時間、ここにいてもいい?」 聞いてみると知花は頷いてくれて。 俺はメットを脱いで笑いかける。 俺は俺がどうしたいのかを知花に伝えないといけない。 知花の家に入れてもらって、そこに適当に座る。 知花はどこかよそよそしくて、元カレという位置におかれているなと思って不満にもなって。 俺はもう一度フラれる覚悟で、知花の腕を引っ張って抱き寄せた。 「…ごめん。俺…、女々しいかもしれないけど、諦められそうにない。着信拒否しないでほしい」 せめてそこから戻していこうと言ったのだけど。 「……ミクは?」 間をおいたかと思うと、知花はその名前を出しやがる。 そんなにミクが気にかかるのか、俺の元カノというものが気にかかるのか。 フラれたのは俺だと何度言えばわかるのか。 「おまえ、いい加減そこ忘れる気ない?俺の右耳、赤いのついてる?」 知花の視線は俺の耳を見る。 「…忘れたい?」 忘れたわけじゃないだろと言われた気がした。 知花に言われると、俺の胸はそのときを思い出して痛くなる。 この痛みから逃げるように知花を追いかけたのは確かに俺だ。 ミクの置き土産をずっとつけていたのは俺だ。 だからいつまでも知花はミクを気にかけるのかもしれない。 知花が気にかけると忘れていたものを思い出す。 悪循環にも思う。 「…中途半端だったのはわかってる。忘れたい。おまえだけでいいって、俺、何回言ったと思ってる?その全部、口先だけだと思った?」 聞いても知花は答えてくれなくて。 口先だけだと思われていて、俺の気持ちは何も届いていなかったのだとわかって溜め息がこぼれる。 「俺はおまえと恋愛ごっこをしたいわけじゃない。恋愛ごっこにしかなっていないかもしれないけど、俺はおまえといたい。ただの友達なんて俺のほうが嫌だ。俺をそんなに軽く見ないで欲しい。 おまえにフラれて泣いてんのは俺だろ?ただの遊びで泣く男だと思われてる?おまえは軽い男がいいのか?」
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