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一緒にいたいのは知花だけ。
信じさせたいけど、そんな術も俺にはない。
迷っている。
元サヤになっていいのか迷っている。
「……ねぇ?私に憧れていたって本当なの?」
知花はいきなりそんなことを聞いてくれて、俺は思わず赤くなって、慌てて知花から顔を逸らす。
隆太が言ったのだろう。
どんなふうに言われたのかわかったものじゃない。
「憧れってそんなもんじゃないって。ただ高校の頃見ていただけっ。前にも言った」
「彼女いたくせに見ているのおかしくない?やっぱり軽いんでしょ?」
そこでそう言うのか?
本当に軽くなれるなら、いくらでも知花に声をかけられていた。
「……おまえは俺を虐めるのが好きだろっ」
俺という男を決めつけられている気がする。
そんな男じゃないと言いたくても、それを軽いと知花が思うなら、軽いんだろう。
俺は知花を悔しげに見て、知花は俺のそばに寄ってきて、下からどこか上目遣いで俺の顔を見てくる。
じーっとその目が俺を見るから、俺はドキドキしてしまって。
その目を手のひらで目隠し。
どんなに諦めようとか、やめようとか思ってみても、俺はその視線一つで知花に転がされてしまうらしい。
惚れている。
悔しいくらいに。
「……美人だなと見てた。つきあっていた彼女よりも。視線、合うのが恥ずかしくて、こっち見る前に目を逸らしてた。……その目にじっと見られるのは今も照れる」
「好きって言って。私の目を見て」
「……おまえ、やっぱり俺を虐めるのが好きだろ?」
言ってやると知花は笑って、目隠しをした俺の手にふれて、その手を離れさせる。
どこかうれしそうに笑った目が俺の目をまっすぐに見つめる。
「好き」
知花の唇からその言葉はこぼれて。
求められているようなその目と言葉に恥ずかしくなって。
俺は知花から目を逸らす。
知花の手はそんな俺の頬にふれて、俺の唇、少し強引にキスをしてきた。
俺は目の前に見える知花の閉じた睫毛を見て、目を閉じて、その唇を感じる。
迷っても、迷っても。
今の俺の中は知花ばかり。
何がそんなに俺を惹きよせてしまうのか。
俺と知花の考え方は違うことも多々ありなのに。
常に同じような考え方でいられないのに。
俺が傷つくこと、ばんばん言ってくれるのに。
それでも。
ただ愛してる。
誰よりも、きっと。
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