Story

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若者の集団はそうこうしているうちに男をおいて移動を始める。 連れてってよ、この酔っ払いっ。 私は声に出せずに、男の腕の中に完全に包まれて真っ赤になって心の中で叫ぶ。 頭にはひたすらキス。 せめて唇にされてしまわないようにと、顔を上げないようにしてる。 「コウ、おいてくよー」 そんな男の仲間の声が男にかかった。 「んー?いく」 男は返事をして。 私の肩を抱いて歩き出す。 ちょっと待ってっ。 私はこの人の友達なんかじゃないってばっ。 「は…、離してくださいっ」 包まれてしまう腕から抜け出せたこともあって、連れ去られそうになるのを抵抗するように立ち止まり、私はなんとか声をあげた。 「なんで?いこうぜ?どうせいつものクラブだろ?」 いえっ、私、いつもを知りませんっ。 この酔っ払いっ! 誰かと勘違いでもしてくれているのかと思って、顔を上げて私の顔を見せる。 男は私の顔を見て、にーっこり笑う。 ダメだ。ただの酔っ払いだ。 「名前なんだっけ?顔は見たことある」 いや、だから友達じゃないっ。 顔は…私、目立っていたつもりもないけど、同じ高校だし、同じクラスになったことあるから、もしかしたら本当に覚えてくれているのかもしれないけど。 「…杉浦知花です…」 「……記憶ねぇわ。美人は覚えてるはずなのに。ま、いいや。トモ、さっさといかないとおいていかれるからいくぞ」 男は私の肩を抱いたまま歩き出す。 記憶ないくせにっ。 なんかいきなり馴れ馴れしいしっ。 酔っ払いーっ! って思いながらも。 私は抗いきれずに男に連れ去られた。 男の名前は紫苑晃佑。 高校3年の春は名簿順の席で私の席の前に座っていた。 私は記憶がある。 その背中を見ていたから。 顔も…覚えているのは…。 ……ちょっとかっこいいなと思っていたから。 話したことはない。 ふれたこともない。 彼は私とは違う世界にいる人だと思う。
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