584人が本棚に入れています
本棚に追加
「千香にフラれたのは俺だ。おまえが千香にいくならトモちゃんにいくぞ。奪われたくないなら、下手なこと言うな」
「……わかった。千香にいく」
俺はビール2杯分の金をおいて店を出ようとして。
「なんでおまえが千香のために動いてる?」
隆太はそう聞いた。
「いつ俺が千香のためって言った?自分の欲望のため」
「トモちゃんに惚れてるのに、おまえがそんな無茶なこと言い出すからだろ」
「なぁ?一途って言葉はわかるけど、すべてに盲目で一途で永遠にいられるのなんて稀だろ?俺にもよくないところがあるように、知花にも俺が嫌だと思うところがある。その小さな隙間を埋めるように懸命になるのは俺ばかり。恋愛に疲れることもある。他の女に走って逃げたくなることもある。惚れた気持ちが色褪せているわけじゃない。それでも疲れたと思うことがある。俺だけじゃないと思うけど?」
本気であればあるほど、本音でぶつかるから、余計に疲れるのだろう。
恋愛ごっこのほうがもしかしたら気楽でいられるのかもしれない。
元カノが俺との恋愛を恋愛ごっこにしたのは、つきあうことは疲れたという意味だったのかもしれない。
「……疲れて逃げる相手の女が千香というのはやめてもらいたい」
「なんで?」
「…今でも俺は千香を大切に思うから。傷つくのを見たくない。おまえに傷つけられるのを見たくない」
「ちゃんとかわいがるって。そのうちちゃんと惚れる」
「おまえにはトモちゃんがいるだろっ。変なこと考えんなよっ」
隆太は俺を本気で止めにかかってきた。
そうなってもらわないと困る。
知花を傷つけるのは俺にとっても本望じゃない。
いくら疲れていても、俺はまだ諦めてはいない。
妥協していないから痴話喧嘩が多いけど。
別れたいなんて思っていない。
「じゃ、おまえが俺のかわりに千香を燃やしてやれる?」
「…燃やすって…」
「本気の恋愛させるってこと。もちろんそうなるとおまえも本気にならないとダメだけどな。…おまえには無理だな。やっぱり俺が…」
「ちょっ、待てっ。なんでそうなるっ?ついでに俺には無理って諦めるの早すぎだろっ」
「だったらやってみろ。どうせ無理だろ」
売り言葉に買い言葉。
「やってやるっ!」
隆太はキレて声をあげた。
…かかった。
よくやった。俺。
最初のコメントを投稿しよう!