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「戻らない。俺の女は一人だけだ」
俺はきっぱりはっきりとミクに告げてやった。
俺がそう言うことをわかっていてか、ミクはつまらないという顔を見せるだけで、傷ついてもくれない。
少しムカつく。
本気でかかってきてくれたのなら、こっちだって本気で迷った様子を見せられるのに。
モテているようで俺はどうせモテない。
女は本気になってくれない。
ムカつく。
なんて思っていた俺の手を知花がぎゅっと握り返してきて、俺は視線を知花へと向ける。
「……私もあなたと晃佑を共有する気なんてないから。もう晃佑に声をかけないで」
知花はしばらく黙っていたかと思うと、そんなことを言ってくれて。
俺を独占しようとするような、そんなことを言ってくれて。
たぶんきっと、ミクよりも俺のほうがドキッとさせられた。
そのまま知花はミクに見せつけるかのように、俺に寄りかかってきて。
更にドキドキさせられる俺がいる。
「晃佑はあなたの玩具じゃないの。私の彼氏。二度と気安くふれないで」
知花はどこか修羅場じみた言葉をミクに言って。
ミクはそんな知花を黙ってただ見ているだけだった。
ミクには返す言葉がないのだろう。
確かに俺はミクの玩具のようなものだから。
とは言っても…、ミクを庇う言葉を言ってしまうのなら、そうならないようにミクから別れを告げたんだ。
他の男に本気で惚れてしまっていながら、俺を弄ばないように。
そして、今のミクはまた本気でもなく、軽いジョークのようなもので、俺と遊びたいがためのつきまといであって。
別に修羅場ではない。
が、知花はミクの存在に妬いてくれているようで、俺の顔を不機嫌に見上げると、俺の手を引っ張って歩き出す。
なんといえばいいのかわからないけれど、その独占欲の剥き出しはうれしいかもしれない。
微妙にこわくて、微妙にうれしくて、なんとも言い難い。
けれどその背中を見ていると、俺の唇の端はあがって。
やっぱりうれしいほうが勝っている。
俺を離さないと言ってくれたように思うから。
俺は離されたくはないし、知花のものでいたいから。
少し歩いてミクから離れてから、知花の手を離すとその肩に腕を回した。
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