Day to day

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あと一言、俺か千香が押せば始まりそうではある。 俺も千香もその一言は例えからかいでも遊びでも口にできない。 俺は知花と別れるつもりはないし、本当に二股をしたとしても、どちらかに偏りをもってしまいそうだ。 知花も千香も。 傷つけたくは…ないし。 口にできない。 俺はそんな器用な男じゃない。 耳に携帯を押し当てたまま、千香の呼吸を聞きながら眠りに落ちた。 痴話喧嘩。 喧嘩をしても数日過ぎると何もなかったようになるのが俺と知花かもしれない。 知花と飯を作って、一緒に食べて、風呂に入ってといつもの生活。 寝る前に携帯を充電しようとして、そのリダイヤルページを開く。 「…隆太から電話かかってくる?」 「うん。たまにかかってくるよ」 知花は何を隠すでもなく教えてくれる。 知花に電話するなって言ったはずなのに。 「どんな話してる?」 「別に普通。…嫉妬?」 知花はうれしそうに聞いてくれる。 嫉妬…しないわけじゃないけど。 隆太が知花を選ぶのなら、本当に千香を拾ってやりたくなる。 天の邪鬼な男だ。 ひねくれていやがる。 「……隆太と話すのが楽しいなら別れようか?」 自分のことを棚にあげた言葉で言ってやると、知花は不満そうな顔を見せる。 「隆太からの電話、着信拒否して。できないなら別れる」 「なに?その束縛。別に晃佑の友達なんだからいいじゃない。加藤くんとは何もない」 「なくても着信拒否。できないのか?」 知花は溜め息をついて、携帯を手にしていじってくれる。 束縛してと言ったのは知花だ。 けっこう無理矢理だけど、これでいいと思う。 知花の背後から携帯の画面を覗き込む。 ちゃんと着信拒否してくれている。 「…晃佑の携帯も見るよ?」 俺は携帯を知花に渡してやる。 知花は俺の携帯をチェックするように見る。 「……千香に昨日電話したの?」 「出ないけど」 毎日、かけてはみている。 リダイヤルは同じ番号への記録は最新のものとなって、毎日かけた痕跡なんてわからない。 電話しながら眠ったあの日から千香は俺の電話には出ない。 「何か用事?」 「生きてるかなって」 「そういえば私、電話してないかも。今度かけてみよ」 他は何を気にするでもなく、知花は携帯を俺に返してきて、俺はそれを受け取った。
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