Day to day

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俺はもう一度、隆太に会いにプールバーへいった。 バーカウンターに人がいない。 軽く店内を見回すと隆太は台の掃除をしていた。 俺は持っていたメットを後ろからその頭にぶつけてやる。 隆太は振り返り、俺だとわかるとあからさまに機嫌の悪そうな顔を見せる。 「メットぶつけるのは痛いからやめろ」 「拳で殴ってやろうか?」 「おまえは喧嘩をふっかけにきたのかよっ。 トモちゃんに着信拒否させただろ?おまえが千香にちょっかい出しそうだと言ってやろうと思っていたのに」 俺の浮気を見張られているのか、千香に手を出されたくないのか。 俺にはどう考えても未練はまったくないとは思えないのに。 動かない。 「言ってもいい。おまえがそのまま動かないなら、本気で手を出す」 「……だから俺に言わずにやるなら勝手にやれ。千香は俺の連れでも彼女でもない」 本気で止めにかかってきて、売り言葉を買ったくせに。 それでもそれが隆太の気持ちなら、無理に千香に隆太を近づける必要はない。 「…んじゃ、もういい」 俺は店を出ようと歩き出して、隆太が俺の肩を掴んで引き留めてくる。 「おまえは千香の世話をやくな。トモちゃんに誤解されるだろ」 知花がいいのか、俺を按じているのか。 こいつのことが本気でわからなくなる。 「どれが一番の本音?」 「おまえが千香に関わらなければそれでいい」 「おまえが俺のかわりにやってくれるわけでもないんだろ?」 「なんで俺を振った女を俺が燃やさなきゃならない?おまえはミクを燃やせと言われて燃やすのか?」 …嫌いだ。 会話にならない。 「嫌ならいいって。俺がやるから」 「だからおまえにはトモちゃんがいるだろっ。おまえはまわりに優しすぎるんだよっ。一人だけに優しくしてやっていればいいだろ」 知花を隆太がかわいがっているのはよくわかる。 「俺、千香もかわいいから」 「おまえなんかトモちゃんにさっさと振られちまえ。フラレ虫」 久しぶりに聞いた。 フラレ虫。 知花との何気ない日常を浮かべて。 幸せだと思うその時間を浮かべて。 千香の顔を浮かべる。 正論なのはわかっている。 傷つけたくないと俺も思う。 俺は隆太に軽く手を振って店を出る。 振られたくはないけど…、フラレそうだ。
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