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知花の友達だからとか、隆太の元カノだからとか、そういうのではない。
俺にとってかわいい女なだけ。
トモにそう接してしまっていたのと同じ。
放っておけない。
「いや、大丈夫。放っておいてくれて大丈夫。だから家までこないでっ!」
千香の家を知花から聞いていってみると、そんな言葉で拒否られた俺がいる。
千香のその迷惑…とも言い切れなさそうな顔をじっと見ると、千香は俺から目を逸らす。
「電話に出ないから遊び相手になりにきてやったのに」
「スギに頬を殴られろってこと?…紫苑、あんたはスギの彼氏なの。わかってる?私はスギの友達なの」
「手を出さなければ大丈夫だって」
「……私が手を出しそうだからいや」
…出されてもいいけど。
「誘惑には弱いのでしないようにお願いします」
「スギとほぼ同棲しているんでしょ?さっさと帰っていちゃついていればいいじゃない。私もちゃんと彼氏つくるから」
「どうでもいい恋愛なら無理にする必要もない。それでも寂しいと思うときがあるなら俺がつきあってやる」
「…男、紹介してくれたほうがいい。誰か彼女いない人いない?」
「ひとまず玄関先じゃなんだし、外いくか家に入れてもらいたいところ…」
「…料理の途中」
「じゃあ、あがる。手伝おうか?」
俺は千香の横をすり抜けて、勝手にお邪魔させてもらう。
我ながらかなり強引な手段になってきた。
俺の家よりも広いキッチン。
火にかけられた鍋ではくつくつと野菜が煮られている。
野菜を切っていた途中らしき、包丁とまな板。
知花の部屋とも違う、女の一人暮らしの部屋。
ベッドは見ないようにしておく。
そっち目的になれないこともないし。
服の袖をまくって、手を洗って、切りかけの野菜を切っていく。
「……彼女いるくせに他の女に優しくするのは罪だよ、紫苑」
「惚れてくれる?」
俺は背後の千香の声にからかうように聞いてやる。
「……スギに言ってやる。殴られちゃえ」
「そのせいで捨てられたら拾ってくれよ?」
「拾ってやらない。馬鹿。……ありがとう」
俺の背中にふれた体温。
俺はそのままに野菜を刻む。
後日、俺は本当に知花に平手打ちをいただくことになる。
軽く柔らかく。
こんな俺の性格を恨んで涙を目に浮かばせて。
ぎゅっと抱きしめると、それだけで許してもらえた。
こんな俺でも、知花が離さない限りは恋愛期間更新し続けるらしい。
2012.7.31
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