584人が本棚に入れています
本棚に追加
私は鳥籠を持っていない。
高校3年の春。
部活もバイトもしていなくて、進学するつもりもない私は予備校に通うこともなく。
夢という夢も描けず、やりたいこともわからなくて、友達を見送ると一人で家に向かって帰る。
徒歩通学。
家に帰るまでの間にある児童公園を横目に見て、夕焼けの中の桜を見上げる。
立ち止まった足は、何を考えるでもなく公園の中へ向かった。
いつから児童公園で遊ぶことをやめたのか、すべての遊具が小さく感じた。
鉄の冷たさを手のひらに感じながら、ジャングルジムや滑り台にふれて、公園を一周すると鞄を置いて、ブランコに立ち乗りしてみる。
こんなに小さなものだったかなと思う。
この公園でよく遊んでいたはずなのに、その時には広い公園に思ったはずなのに。
あの頃はどんな夢をみていただろう。
ブランコを漕ぐとギィっと錆びた鉄が擦れ合う音が響いた。
その音を聞きながら、ブランコの漕ぎ方を思い出してきて、どこまで漕げるか遊んでみた。
高校3年にもなって、一人で。
端から見るとおかしい人に思われそうだ。
ブランコの近くには桜の木。
あの桜を掴めるか遊んだなと小さい頃を思い出す。
まっすぐ家に帰ってもすることはない。
暗くなるまで出歩いていても、うるさく言ってくる親もいない。
両親は共働きだ。
何もすることがないなら家のこと、何かしなさいって怒られるけど。
ひたすらブランコを漕いでいたら、いつからか児童公園の中に同じ学校の制服の男がいた。
こっちを見ている。
私は短いスカートを見て、パンチラを思って、悲鳴をあげてしまいたい気持ちでブランコから飛び降りる。
小さい頃のほうが運動神経よかったのかもしれない。
思いきり着地に失敗して、私は地面に転んだ。
思いきりかっこ悪い。
恥ずかしい。
立ち上がって逃げ出したいのに、ちょっと足が痛い。
俯いていたら、私にかかった人の影。
顔を上げると、そこにいたのは同じ学校、同じ学年の男。
加藤隆太。
同じクラス。
黙って私を見下ろしてくれている。
「……パンツ見たでしょ?」
恥ずかしく思いながら聞いてやると、加藤は笑った。
「しましま」
しっかり見られてるしっ。
立ち上がって加藤を叩いてやろうとしたら、加藤は私のスカートの汚れを払うようにふれてきて。
私はびくっとして、慌てて加藤から距離をとる。
最初のコメントを投稿しよう!