Cage(Chika↓all)

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自分でスカートや足についた汚れを手で払う。 かっこ悪い…。 早く逃げたくて、鞄を手にすると走って逃げようとしたのに、加藤の手は私の鞄を掴んで引き留めてきた。 振り返って加藤を見る。 そもそも私はこいつと会話もしたことがない。 名前は覚えてるけど、話したこともない。 「なぁ、明日、またここで会える?」 「…私、加藤の友達でもないと思う」 「苗字好きじゃない。隆太って呼んで。おまえの名前は?若林…なに?」 「……千香」 「じゃあ、千香って呼ぶ」 男友達…いなかったことはないけど。 ファーストネームで呼ばれるのは初めてかもしれない。 なんか恥ずかしい。 ナンパされているみたいに思う。 「若林でいいってば。彼女でもないし」 「…彼氏いる?」 「いない。加藤は?」 「隆太。……いない。今までつきあったこともない」 「私も」 なんて、まるで自己紹介みたいな会話。 空はそんな間にも暗くなってきていて。 いつの間に灯ったのか、街灯の明かりの中に隆太の姿が見える。 少しの沈黙。 また帰ろうと歩きだそうとしたら、隆太の手はまた私の鞄を掴んで引き留めてくる。 「家、帰らないと怒られる?」 「…まだ親帰ってきていないと思うけど。……なんで引き留めるの?…かまって欲しいの?」 ちょっとからかうように聞くと、隆太は私から目を逸らして頷いてくれたりなんてして。 私のほうがどこか恥ずかしくなった。 「遊んで?飯、なんか買いにいこうか?」 どこかなつかれてしまった感じ。 少しのドキドキ。 デートみたい…なんて思いながら、私は隆太と時間がある限り遊ぶことにした。 ファーストフードでハンバーガーを食べて。 話したこともなかったのに、少し話しながらデート。 楽しいのか、なんなのかわかんないけど。 うれしい。 隆太の自転車の後ろに乗せてもらって、はしゃいでしまいながら顔を上げると、隆太も楽しそうに笑ってくれていて。 またうれしくなる。 恋愛…なんてしたことないし、そんな雰囲気に酔っていただけかもしれない。 家に帰ってお風呂に入って、擦りむいた膝小僧を撫でていると、なぜか思い出し笑い。 うれしい。 小さなドキドキ。 始まっていた。 私の中では。 隆太との恋愛。 初めて言葉をかわしたその時から。
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