Cage(Chika↓all)

5/21
前へ
/606ページ
次へ
学校の中では言葉をかわすことはなかった。 目が合ったら挨拶くらいしようと思っているのに、その視線は同じ教室にいても、こっちを見てくれることはない。 隆太の友達は男も女もいる。 隆太の腕にふれる女の手をぼんやり見ていた。 隆太は振り払うこともなく、誰かの話にたまに笑顔を見せる。 軽い嫉妬。 「千香」 名前を呼ばれて隆太から視線を外して廊下を見ると、教室の窓から中学の頃の男友達が手を振っていて、私は手を振り返して立ち上がり、その男友達と話すために教室を出る。 男友達…ばかりだったかもしれない。 いつしか陰口を叩かれるようになった中学の頃。 男にちやほやされたいから男に混ざっているんじゃないかって。 そんなつもりはなくても、誰かにはそんな印象を与えてしまうらしい。 だから高校では男に近寄らなくなった。 声をかけられても会話という会話をしようとしなかった。 男友達が持ってきたのはライブのチケット。 500円でいいからカンパしてとのこと。 渋々、少ないお小遣いから買ってあげると、男友達は喜ぶ。 「またカンパ頼みにきていい?」 「進学しないの?バンドなんてやっていて大丈夫?」 「就職する。千香は?このクラスってことは進学?」 「迷ってる。大学いっても何をしたいとかないし」 ただの学歴にしかならない。 学歴…って、よくわからない。 夢…がない。 バンドとか、部活とか、何かやりたいことでもあればいいのに、そういうものがない。 「一緒にバンドやる?」 「カスタネット叩いておけばいい?」 それとも鈴かタンバリン。 楽器なんて弾けない。 思えばこれといった特技も私は持っていない。 男友達は笑って、私の頭を軽く撫でて、チャイムの音に教室へと戻っていく。 私も教室の中へ戻ろうとして、隆太と視線が合った。 何か声をかける前に、隆太は隆太の女友達に腕を引っ張られて視線が逸れる。 胸の中の痛み。 私は…隆太が好きらしい。 何が好きとか、そんなのわからないけれど。 私だけかまっていて欲しいなんて、そんな独占欲。 私も…ふれたい。 その腕に抱きついて甘えたい。 ふれたい。 放課後、いつもの児童公園。 ベンチに座って隆太と時間を潰すように話していた。 ブレザーにふれてみた。 隆太は…私から逃げるように立ち上がった。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加