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学校の中では言葉をかわすことはなかった。
目が合ったら挨拶くらいしようと思っているのに、その視線は同じ教室にいても、こっちを見てくれることはない。
隆太の友達は男も女もいる。
隆太の腕にふれる女の手をぼんやり見ていた。
隆太は振り払うこともなく、誰かの話にたまに笑顔を見せる。
軽い嫉妬。
「千香」
名前を呼ばれて隆太から視線を外して廊下を見ると、教室の窓から中学の頃の男友達が手を振っていて、私は手を振り返して立ち上がり、その男友達と話すために教室を出る。
男友達…ばかりだったかもしれない。
いつしか陰口を叩かれるようになった中学の頃。
男にちやほやされたいから男に混ざっているんじゃないかって。
そんなつもりはなくても、誰かにはそんな印象を与えてしまうらしい。
だから高校では男に近寄らなくなった。
声をかけられても会話という会話をしようとしなかった。
男友達が持ってきたのはライブのチケット。
500円でいいからカンパしてとのこと。
渋々、少ないお小遣いから買ってあげると、男友達は喜ぶ。
「またカンパ頼みにきていい?」
「進学しないの?バンドなんてやっていて大丈夫?」
「就職する。千香は?このクラスってことは進学?」
「迷ってる。大学いっても何をしたいとかないし」
ただの学歴にしかならない。
学歴…って、よくわからない。
夢…がない。
バンドとか、部活とか、何かやりたいことでもあればいいのに、そういうものがない。
「一緒にバンドやる?」
「カスタネット叩いておけばいい?」
それとも鈴かタンバリン。
楽器なんて弾けない。
思えばこれといった特技も私は持っていない。
男友達は笑って、私の頭を軽く撫でて、チャイムの音に教室へと戻っていく。
私も教室の中へ戻ろうとして、隆太と視線が合った。
何か声をかける前に、隆太は隆太の女友達に腕を引っ張られて視線が逸れる。
胸の中の痛み。
私は…隆太が好きらしい。
何が好きとか、そんなのわからないけれど。
私だけかまっていて欲しいなんて、そんな独占欲。
私も…ふれたい。
その腕に抱きついて甘えたい。
ふれたい。
放課後、いつもの児童公園。
ベンチに座って隆太と時間を潰すように話していた。
ブレザーにふれてみた。
隆太は…私から逃げるように立ち上がった。
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