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「どっかいこうか。ゲーセンでもいこ」
なんて隆太は私がふれようとしたことをわかっているのか、いないのか。
でも私のふれようとしたブレザーの腕を押さえて、私のほうを見ようとしない。
「…ねぇ?私、隆太に嫌われてる?学校で声もかけてくれないよね。同じクラスなのに。……もし、さ、嫌われてるなら、それでもいいから…。他の子につきあってもらえばいいんじゃない?ほら、隆太がよく教室で一緒にいる原田さんとか」
私は痛くなる胸をできるだけ気にしないように隆太の背中に言ってあげる。
隆太のこの時間潰しにつきあってあげられる女の子なんて、いくらでもいると思う。
ちょっと…私が最初から勘違いしていた。
そういうことにしておこう。
友達…じゃない。
彼氏でもない。
一人で勝手に盛り上がるのは、これ以上やめたほうがいい。
私は…隆太にふれてはいけないようだから。
「嫌ってない。…照れてるだけだって」
隆太は私を振り返って言ってくれる。
それでも、その言葉を信じてあげられそうにない。
だって…私は振り払われる。
他の子は大丈夫。
それを思うと、悔しくもなって、泣きたくなって、泣かないように我慢した。
悔しいのは…好きだから。
声をあげると涙はこぼれそうで、俯くと涙はこぼれそうで。
隆太が何も言わないから、長い沈黙。
「……千香、…彼女に…なってほしい」
隆太は俯いて、そんなことを言ってくれた。
告白なのかなんなのかわからない。
ふれようとしたら逃げる彼氏なんて…。
「原田さんとつきあえば?」
きっとそのほうが隆太だって楽しいだろう。
「なんで奈緒美の話になるわけっ?俺はおまえにつきあってって言ってるのにっ」
ナオミ。
原田奈緒美。
隆太にとって女の子をファーストネームで呼ぶのは当たり前のことのようだ。
私だけが特別だなんてとても思えない。
「つきあったら何が変わるの?」
「……わからない…けど。…俺は奈緒美とつきあいたいと思ったことないし、……千香が男に頭を撫でられてるの見たくないし…。千香とつきあいたい」
隆太は赤くなって、どこか恥ずかしそうに私から目を逸らす。
嫉妬…?
独占欲…?
つきあったら…見せてもいいの?
でも…。
私は隆太に手を差し出した。
「ふれてくれたらつきあう」
なんて言ってみると、隆太の指先が私の指先にふれた。
…恥ずかしがってる演技のように私には思う。
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