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「……俺と一緒にいる間は練習禁止」
「はーい。…隆太、予備校は?」
私はスティックを鞄にしまいながら聞いてあげる。
「…小学校でも中学でも…それなりの点数とっていたから、頭のいい私立に受験はさせられてきた。…ことごとく落ちて今は別に親に期待もされていない。親の行かせたいところに行かなくても、大学さえ入れればそれでいい。予備校の必要なんてない」
「隆太って成績いいの?」
「まぁまぁ」
なんて言いながら煙草を取り出して吸う。
成績よくても素行は普通よりよくなさそうだ。
内申で落ちているんじゃないかと私は思う。
親はそれなり厳しいお坊ちゃん。
親に反発しまくりの子供にも思う。
隆太に甘えるように、その煙草を持つ腕に軽く寄りかかろうとしたら、隆太は危険を察したかのように離れる。
無言で顔をあげて隆太を見ると、隆太は私の唇に新しい煙草を挟んできて、火をつける。
軽く吸うと煙草の先端が赤く燃えた。
ふぅっとそんなに吸うこともなく、隆太の真似をするように煙を吐く。
「…いちゃいちゃ禁止」
「それってつきあってるの?」
「……だから俺もつきあうの初めてだってっ」
「つきあわなくてもよかったんじゃない?」
「…千香は俺の。そう言える関係になりたいって思っただけ」
「…隆太は私の」
隆太の真似をするように言ってみると、隆太は煙草の煙をげほげほ吐いた。
また恥ずかしそうに顔を逸らす。
私は手にした煙草の灰を落として、思いきり煙草を吸ってみた。
咳き込むこともなく、ふぅっと煙を吐く。
ちょっとだけ頭がくらっとする。
脳細胞が一つ死んだかもしれない。
余計なこと、なんにも考えない頭になっちゃえばいい。
なんて思ってまた煙を吸う。
そこにあるその腕にふれたいだけなのに。
隣に座っていて、彼女のはずなのに、友達でもないみたい。
だけど、自転車の後ろに乗せてもらうときだけは、その背中にふれても何も言わない。
隆太の背中に額を押し当てて、その背中に甘える。
ずっと自転車に乗っていたい。
すりすりと顔を擦りつけてやった。
「千香っ、だから、…あんまりくっつくなってっ」
なんて結局言われてしまう。
ぎゅっと背中から隆太の体に抱きついてやると、隆太はブレーキをかけた。
それでもぎゅって抱きついて甘えてやった。
隆太のにおい。煙草のにおい。
私の指先に困ったようにふれる隆太の指先の温度。
…片思いみたい。
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