Cage(Chika↓all)

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好きなんて隆太が言ってくれることはない。 それでもつきあおうと言ったのは隆太からだった。 だけどふれたいと思うのは私だけのようで。 隆太はただ私が隣にいて、その予備校のサボりの時間につきあっていればいいだけのようで。 それだけのためのつきあおうだったのかなとも思う。 なんだか悔しいから、私は嫌がられるのをわかっていながら、その腕にくっついていく。 思いきり暴れてもくっついてやる。 背中を見せたら抱きついてやる。 嫌われてしまっていいから。 毎日の放課後デート。 それが当たり前のようになって。 今日こそは学校を一緒に出てやると無駄に教室に残って。 隆太が紫苑たちと話している声に聞き耳を立てる。 「隆太、彼女待ってるぞ」 なんて言われて、隆太のほうを見ると、その友達の視線は私のほうを見ていて。 隆太は私を見ると、手で払う。 むぅっと頬を膨らませると隆太の友達に笑われた。 「千香っ、先にいつものところに行っておけよっ。すぐいくからっ」 「なんで一緒にはダメなのっ?」 なんて今日こそはって聞いてやる。 思えば学校で会話をするのはこれが初めてかもしれない。 思いきり冷やかされて、隆太の友達はごゆっくりなんて言って先に帰っていった。 隆太は頭を抱えて溜め息なんてついてくれる。 「冷やかされたくないからだっ」 なんて答えをくれる。 「…原田さんとつきあってるからじゃないの?」 「つきあってないっ。俺の彼女はおまえだろっ。…とりあえず帰ろう」 隆太は鞄を手にして歩き出す。 私はその背中を見ていた。 隆太は教室を出て、一人で歩いていって。 私は頬を膨らませて、自分の席に座る。 つきあってるなら、もうちょっと違う態度見せろって思う。 中学の男友達よりも素っ気ない。 拗ねまくって机に俯せていた。 「千香」 隆太の声が聞こえる。 無視していたら、近づいてくる足音。 私の頭にふれた手。 「……帰ろう?」 「もっと優しくして」 「ごめん…」 「学校でももっと一緒にいたい」 私は顔をあげて隆太を見る。 「…それは却下」 「なんでっ?」 「冷やかされるっ。…手、繋いでいく?」 恨めしい。 たったそれだけに釣られてしまう自分が悔しい。 右手を繋いで。 少し視線をあげた先に隆太の横顔を見て。 ぎゅって手を握ると、隆太の手は握り返してくれて。 たったそれだけで喜んでしまう馬鹿な私。
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