Cage(Chika↓all)

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翌日は休み。 ドラムの練習に引っ張り出されて、男友達と軽くデートみたいに二人で歩く。 人混みではぐれそうになって、男友達は何も言わなくても私の手を握った。 「はぐれると困るから、しっかり握っておくこと」 「…セクハラ」 「そんなんじゃない。…ちょっとだけしか」 「やっぱりセクハラ」 「だって千香、中学の頃より、なんかかわいくなったし。彼女みたいに歩いてもらって優越感感じたい」 「彼女じゃありませんけど?」 「……加藤とつきあってるって本当?」 学校で話してもいないのに、どこから広まるのか。 嘘と言ったら、つきあっていないで本当にとおってしまいそうだ。 男友達の手のほうが、私の手を絶対に離さないってくらいに握ってくれている。 隆太と繋いだ手は、隆太が自転車に乗ると離れた。 その後、自転車から降りて、また手を繋いでくれることもなかった。 …ここにいる男友達のほうが彼氏みたい。 そう思うと、なんだか寂しくて泣きそうになる。 「加藤って原田さんとつきあってたんじゃなかったのか?」 私に聞かないで欲しい。 そんなの私のほうが聞きたい。 泣きそう。 片思いのようで。 私ばかり隆太のこと好きみたい。 好きじゃないなら、つきあいたいなんて言ってくれなくてよかったのに。 「…ごめん。クレープでもいかがっすか?」 泣きそうになっていた私に気がついて、男友達は言ってくれる。 「チョコカスタードバナナ」 「了解。……千香がよければ、俺、千香の彼氏になるよ?」 「寝言は寝てから言いやがれ」 さっくり切り捨ててやった。 繋いだ手は隆太の手とは違う。 隣を見ると隆太より高い位置に頭がある。 背中の広さも、体の厚みも隆太じゃない。 私ばかりが好きになってしまっているなんて、かなり不公平。 ドラムの練習の帰り、隆太の吸っている煙草を買った。 適当に座って、煙草を吸ってみると隆太のにおいがした。 我慢しまくっていた涙がこぼれた。 なにがどうしてこんなに好きなのか、自分のこともよくわからない。 ただ、好き。 一緒にいたいのは一人だけ。 ふれてほしいのは一人だけ。 煙が目にしみる。
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