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買ってきた雑誌を見ながら、眉を軽く整えてみる。
買ってきたリップを塗ってみる。
女の子らしいねって言われたくて、お菓子作りに興味を持ってみる。
放課後、スギと一緒に教室を出て、門まで歩いてそこで別れた。
私は一人、その足で自転車置き場へ向かう。
一緒に学校を出る…くらいならいいかな、なんて。
冷やかされたくないばかり言ってくれるから、そんなこと考えた。
でも自転車置き場で待ってみても、隆太はなかなか出てこなくて。
立っているのも疲れて座り込む。
ポケットに入れていたリップを塗って、鏡を見て前髪整えてみたり。
自転車を動かす音に隆太かなって立ち上がって、違うことに恥ずかしくなってまた座り込んだり。
馬鹿みたいだけど、私なりに一生懸命だ。
「だから、俺、彼女いるって言ってやってるだろ?」
なんていう隆太の声が聞こえた。
「それでもいいって言ってやってる」
なんていう原田さんの声も聞こえて、とても立ち上がれなかった。
「というか、ずっと好きって言ってるのに、隆太が勝手にいつの間にか彼女つくっていたんじゃない」
「……断った」
「振り向いてくれるまで追いかけるって言ったよ?…若林のところなんて行かせたくない。さっさと別れちゃえば?」
「だから…、俺は奈緒美とつきあう気はないって。おまえ、コウとつきあっていたくせに、なんで俺にくる?コウに腹いせに見せつけるためにベタベタしてきているなら、俺を相手にするな」
なんていう隆太の言葉のあと、自転車を動かすような音が聞こえた。
「そんなんじゃないってば。あたしは隆太が好きなだけ。ねぇ?隆太の好みってどんな女?」
「…俺の行動を邪魔しない女」
「だから行かせたくないって言ってるでしょ?あたしを連れていってくれるなら道をあけてあげる。隆太、待ち合わせ場所教えてくれないし、押しかけられないもん」
「いくら好意を持っていても邪魔していいわけじゃないだろ?…俺、たぶん、本気でキレたら女でも殴れる」
「……なんであたしはダメなの?なんで若林とつきあったの?」
「おまえとつきあいたいと思わなかったから。……って泣くなよっ」
「隆太が優しくしてくれないからじゃないっ。…キスして」
「ふざけんな。……だから泣くなっ」
私は物音一つたてられず。
したくもないのに盗み聞き。
泣かれると隆太は弱いらしい。
ひたすら引き留められてくれている。
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