Cage(Chika↓all)

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隆太と原田さんはつきあってはいなかったけれど、原田さんは隆太が好きだったらしい。 …見たからにわかるけど。 声も物音も聞こえなくなって、ちらっと覗き見ると、隆太は原田さんの額にキスをしていた。 私も…キスしてほしい。 いいなぁって思う。 自分の気持ちをあんなふうにまっすぐに相手に伝えられる原田さんはすごいなって思う。 嫉妬…しちゃいけないみたいだ。 私は隆太の彼女。 原田さんには羨まれるのだろう。 …だけど……、あんまり変わらない…とも思う。 待ち合わせて会えることを羨まれるかもしれないけれど、隆太に気軽にふれてもらえる原田さんを私は羨む。 ぼんやり見ていたら、隆太と視線がぶつかった。 私は慌てて隠れる。 …たぶん遅い。 わかってるけど隠れた。 「……これ以上はしないっ。絶対にしないっ。さっさと帰れ、奈緒美っ」 「…無理矢理する」 「やめ…っ、さわるなっ、おいっ」 隆太は自転車を手放したらしい。 自転車がこける大きな音が響いた。 私は溜め息をついて、自転車置き場の壁の影に隠れて移動。 隆太たちのところから死角になった場所で立ち上がって、裏門を抜けて学校を出た。 彼女ってなんだろうって思う。 つきあう意味もわからない。 私は隆太の行動を制限するだけの存在なのか。 ……キス、しちゃえばいい。 他の子といくらでもしちゃえばいい。 どうせ私にはしない。 公園に辿り着くと、ブランコまで歩いて、鞄を置いて、立ち乗り。 ゆらゆらと鉄の擦れ合う音を響かせながら、ブランコを揺らす。 夕焼けの空が暗くなって街灯が灯った頃、隆太は公園にきた。 私の姿を見つけて走り寄ってくる。 「ごめんっ。もうしないからっ」 謝ってくれる。 見なかったことにしてくれればいいのに。 隆太に見つかってしまった私が悪い。 「…してもいいよ?」 隆太は頭を横に振る。 「千香にされたくないからしないっ」 なんて真剣な顔を見せて言ってくれちゃう。 その気持ちはうれしい。 そんな相手はいないけど。 「私は隆太だけのもの」 隆太が私のものじゃなくても。 私の心は隆太しか見えていないから。 私は隆太だけのもの。 ちょっと恥ずかしくもなって、照れ隠しにブランコを漕ごうとすると、隆太の手はそれを止めるように、ブランコの鎖にふれた。 目の前、私の視線より下に隆太の顔が見える。
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