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「俺が予備校行ったら会えなくなるだろ。それでいいのかよ?」
「学校、同じで同じクラス。毎日会ってる。隆太が予備校行かない理由にされたくない」
「学校じゃあんまり話せない」
「電話番号教えてもらったから、いつでも話すくらいできるよ?」
私は携帯を隆太に見せる。
隆太は言葉をなくして、私から顔を逸らして煙草に火をつける。
「煙草、ブレザーににおい残ってるから、脱ぐか家で消臭スプレーしたほうがいいよ?」
言ってみると隆太はブレザーを脱ぐ。
私は隆太がブレザーを脱ぐのを手伝って、そのままそのブレザーを持たせてもらう。
隆太の体温。
顔を埋めると隆太のにおい。
「……予備校、別に毎日あるわけじゃない…けど、……千香がなんで俺に親の決めた道を歩けって言うんだよ?俺は俺の好きなことをして生きたい」
「好きなことをするのはまちがってないと思うよ。大学くらい親の希望叶えてあげたら?って思っただけ。今まで裏切ってきたんでしょ?」
「……俺は俺で、誰かの操り人形になりたくない。
世界は小さな狭い鳥籠のように思う。俺は鳥籠に閉じ込められて、その小さな世界で暴れているだけなのかもしれない」
私はその鳥籠を頭の中に描く。
「…その扉は開いていないの?」
「開いていない。何をやっても親の操り人形のまま」
「開ければいいじゃない。私には隆太が好きでそこにいるように見えるよ。その扉に鍵はかけられているの?絶対に逃げられないの?隆太が逃げようとしていないだけでしょ?どんなに嫌がっても、隆太は家に帰る。鳥籠の中の更に小さな鳥籠の中へ自分から帰っている」
居心地が悪い場所なのかは端から見てわからないけど。
閉じ込められているようには私には思えない。
操り人形の糸も切れていると思う。
鳥籠の大きさを決めているのは隆太だ。
もう一つ大きな鳥籠へ飛び出せるのに、扉を開けていないだけ。
私は隆太のブレザーに顔を擦り寄せる。
「……千香の鳥籠に入りたいかも」
隆太のほうへ視線を向けると、隆太は私を見ていた。
その手が私の頬にふれて、隆太の顔が近づいてくる。
私は隆太の唇に指先を当てた。
「ファーストキスが煙草の味なんていや」
「…キスしたことない?」
「ないよ。甘いキスしてみたい」
そこまで言うと、隆太はどこか挙動不審になって私から顔を逸らす。
…あめ玉一個食べてから、ちゅってしてくれればいいのに。
馬鹿。
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