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よいしょよいしょと登って、バリケードの上に顔を覗かせて中を見てみると、中は別に真っ暗というわけでもなく。
街灯の明かりでけっこう明るい。
バリケードの中に入ると、隆太の腕が私の体をしっかりと抱いて、ゆっくりとその階段に下ろしてくれる。
私は探検をするように階段を下りていく。
廃ビルとか探検してみたいように思う。
廃病院となると、ちょっとこわいからいや。
階段の最終地点はシャッターが降りていて、開けようとしてみたけど、開かなかった。
開いても地下通路。
たぶん真っ暗でこわくて、とても先に進めないと思う。
「満足?」
隆太は階段の途中に座って、煙草に火をつけながら聞く。
「微妙に不満。もっと奥のほうまでいってみたかったかも」
私は隆太の隣まで歩いて、そこに座る。
隆太の煙草を挟んだ指が近づいてきて、私はその煙草を一口吸わせてもらう。
「俺のほうが暗いところ見えないのに」
私が煙を吐く隣で隆太は煙草に口をつける。
間接キス。
またじーっと隆太の煙草を持つ指と唇を見てしまう。
飴持っていなかったかなとポケットを探って、鞄の中を見てみる。
「なんか探してる?」
「飴」
「言ってくれれば出すのに。ガムもある」
隆太はどこに持っているのか、ブレザーの胸ポケットや、ズボンのポケットや、鞄のポケットから、ぼろぼろとお菓子を出す。
煙草を吸える場所も限られているし、口が寂しいから飴やガムをたくさん持ち歩いているらしい。
高校生。
人目のあるところで制服のまま堂々とは煙草を吸えない。
なに味なのか、ちょっと暗くてよく見えない。
隆太は携帯灰皿に灰を落として、ぼんやりと煙草を吸っていて、私がどうして飴を欲しがったのかもわかっていない。
「煙草、まだ?」
「新しいの吸う?」
隆太は煙草を消すと、煙草の箱を出してくる。
まったくもってわかってない。
何味かはわからないけど、飴を一つ包装から出して、隆太の唇に当てた。
隆太は不思議そうに私を見ながら、小さく薄く唇を開いて、飴を中に押し込む。
隆太の舌が軽く私の指先にふれて、隆太の唇は私の指を挟む。
「何味?」
「いちご…と、千香の指の味」
「じゃあ、いちご味のキス?私も煙草吸ったし、何か飴食べようかな」
「…こんなところでキス?」
「だめ?」
私は聞きながら、何味かわからないけど飴を口に入れて転がしてみる。
レモンだ。
いちごのほうがよかったなと思う。
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