Chain

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隆太と会える日は帰りが遅くなる。 一緒にいられるだけ一緒にいたいのは私。 「ただいま」 玄関の扉を開けて声をかけて、自分の部屋へまっすぐに向かう。 ただ、私の家は団地。 部屋に入っても隣に親の部屋がある。 襖で仕切られているだけの部屋。 「どこいってたの?」 お母さんの声がいつものように聞こえてくる。 共働き…なのだけど、この家に父親の姿は1週間以上見ていないかもしれない。 いても喧嘩してくれるし、そんな声聞きたくもないし、いないほうがいいかもしれない。 お母さんの声に私は答えず、制服から着替えて、お風呂。 お風呂をあがったあとに、自分の食事を軽く作って済ませて眠る。 お母さんは少し病んでいる。 心が病んでいる。 姉がいるけど、家はこんな状態だし、帰ってくることもない。 こんな状態で進学なんてとても考えられるものじゃない。 進学するくらいなら、働いて家を出て一人で暮らしたほうがいいとも思う。 …それでも、少しだけ夢をみてもいいと言ってくれるのなら。 隆太と…同じ道を歩いてみたかった。 私は隆太の苦しさなんて一つもわかってあげられそうにない。 隆太が逃げているものを羨ましくも思う。 生活費はある程度、父親が振り込んでくれているから、別に貧しいわけでもないけど。 心が病んでいる母は食事を作らないし、掃除も洗濯もしない。 自分が食べるぶんだけはちゃんと食べているけど、私のぶんはどこにもない。 掃除も洗濯も私が1週間ぶんをまとめてやる。 家族が多いわけでもないし、部屋が広いわけでもないから、それでじゅうぶんだ。 私がなにもしなければ鼠とゴキブリと一緒に暮らして、家族は多かったかもしれない。 母の部屋を勝手に掃除してそのへんの衣類は洗濯物として勝手に洗う。 それが私のいつもの休日の過ごし方。 隆太はお坊ちゃん。 私はとても隆太に似合う女じゃないと思う。 それでも隆太からのメールの着信に気がつくと、私は思わず笑顔になってメールに返信。 この家から離れているときが私は一番落ち着くかもしれない。 きっと卒業してしまえば隆太と毎日会うことなんてできなくなるけど。 早く卒業したい。 そう思う。 私は私の問題から、まったく逃げた気持ちがないわけでもない。
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