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隆太が予備校にいく放課後、学校を出ようとしたところで原田さんに呼び止められた。
「若林。ちょっとつきあって」
って、その顔はまったくもって穏やかなものじゃない。
理由は隆太しかないだろう。
理不尽な恨みでもなさそうだし、言われるままにつきあってみた。
「コウとつきあって隆太と知り合ったようなものなんだけど、隆太のほうがいいなぁって思って乗り替えちゃったの。だから隆太はずっとあたしを受け入れてはくれなかったけど、友達としてはちゃんと接してくれていた。
でもね、今日、隆太にもう友達としてもつきあえないって言われた。
…若林がまったく関係ないって思えないんだけど、あたしの予想、まちがってる?」
原田さんは自販機でジュースを買いながら、私に問いかけてくれる。
「……私は隆太じゃないからわからないけど、私が他の男と仲良くしてほしくないから、隆太も他の女と仲良くしないようにしたんだと思うよ」
私は原田さんに答えてあげて、自分の飲み物を買って。
飲みながらまた原田さんにつきあうように私は歩く。
町の中の細い路地で立ち止まって、原田さんは自分のジュースを飲む。
「どうやって隆太を引っかけたの?誰ともつきあう気はないって、いつもそういう態度の男だったのに」
「…知らない。私が引っかけられたんだってば」
また明日って言ったのも、彼女になってと言ったのも、隆太だ。
私は何かをしたつもりもない。
言うなら、私は私の問題から逃げたくて、隆太と同じ時間を過ごしていただけ。
私が隆太につきあってもらっていただけ。
「逆恨みだってわかってる。でもあたし、若林のこと殴りたい」
「…殴っていいよ」
言ったら、本当に殴られた。
頬が痛い。熱い。
でも…物を使って殴らないのは、相手も痛いものだと思う。
殴られた私は泣かなかったのに、原田さんが泣いた。
慰める言葉なんて私に出るはずもない。
私に慰められたって原田さんもうれしくもないだろう。
頬がじんじんする。
痛い。
「……もう一回殴っていいよ?」
原田さんは泣きながら頭を横に振りまくる。
こんなかわいい子に惚れられていながら、どうして振ってしまうのか私にはわからないかもしれない。
私はきっと、隆太が他の子とつきあっても、その相手に自分の気持ちを言うこともできないだろう。
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