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「…体も。欲しい」
私の耳元、隆太の声。
耳にかかる隆太の息。
口を塞いでいた隆太の手は私の背中を引き寄せる。
私は隆太の頭に頭を寄せる。
「…法学部受かったら?」
「だから、それ、無理だってっ」
本当に困ったように言ってくれるから笑える。
うれしくて笑える。
体だけでもいい。
私を求めてくれるから、うれしい。
あなたが思うより、私のほうがあなたにくっついていたい。
あなたの腕の中に抱きしめられていたい。
あなたの唇で愛撫をされて、気持ちよくなりたい。
母が男に抱かれるのは私と同じで寂しくて甘えたいからなのかもしれない。
誰でもいいから抱きしめられたいのかもしれない。
私は……隆太じゃなくても誰でもよかったのかもしれない。
たまたま、そこに隆太がいただけ。
…そういうことにしておきたい。
「…忍び込むじゃないなら、俺の家来てくれる?たぶん紹介する形になって、かなりやりづらいけど。俺の彼女だし。ちゃんと予備校にもいってるし。引け目はない」
隆太はなんだか真剣に考えてくれちゃってる。
「…ぎゅってして?息苦しいくらい、強く」
頼んでみると、隆太は私の背中を両腕で強く抱きしめてくれる。
私の胸の膨らみは隆太の胸に押し潰されて、私の唇からは思わず声と吐息が溢れる。
隆太の手は私の背中を撫でて、またぎゅうっと強く抱きしめてくれる。
吐息を溢して、思わず後ろに倒れそうになる。
さらけ出した私の首筋に隆太の唇がふれる。
「…あっ…、…んっ、いや…」
「千香が誘ってるっ。なんでおまえ、そうなのっ?他の男の前でそんなふうに甘えるの禁止な?冗談で男をからかうのも禁止っ。……千香」
「好き。隆太の独占欲。……でも、もう…私の遊びにつきあってくれなくて…いいよ?」
私はきっと唐突に言っただろう。
こんないちゃつきながら言うようなことでもないのに。
ぎゅって私の心、握られちゃうから、それを止めただけ。
ずっとずっとここにいたくなるから。
隆太の腕の中にいたくなるから。
手を離されたときが…悲しくなるのを知っているから。
「…俺は遊びじゃない。おまえが遊びだとしても、俺は本気。……別れてやらない」
隆太は私の首筋に顔を埋めて答えてくれる。
「…もうここにこないよ?」
「俺はくるよ。千香が俺に会ってやってもいいと思うなら来てくれたらいい。…俺の彼女はおまえだけ」
私の心を捕まえないでもらいたい。
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