Chain

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隆太に何かを言われる前にカーテンを閉める。 まだまだ使えるスティックでもったいないと思うけど、新しいスティックを出してまた練習。 「千香、なんか飛んできたけど?」 なんていう隆太の声に窓のほうを見ると、隆太が窓枠に腕をついて、こっちを見ていた。 「わざと投げた?嫉妬?」 なんて、どこかうれしそうに聞いてくれる。 「滑っただけ」 「受験生に禁句使うな」 言われてみるとそうだったりする。 とりあえずスティックは返していただこうと受け取ろうとした。 隆太は手を離さず、私を見上げる。 「…彼女放っておかないほうがいいんじゃない?」 「俺の彼女はおまえだけ。おまえは堂々と二股してるんだよな?」 「……別れたってば」 「文化祭だけ現れる軽音幽霊部員のボーカルと?ようやく?」 「隆太と」 「山瀬と別れろよ。俺がさっき話していたの、山瀬とデートしてた女」 隆太はいったい、なにを動いてくれているのか。 男友達の女関係なんて今に始まったことなんかじゃない。 そういうのわかっていて、隆太から離れるためだけのつきあい。 あっちも私に気がないことくらいわかってる。 それでも長く続いてしまうのは、お互いに友達以上を求めたつきあいでもないからだろう。 いや、求められるけど。 平手打ちしたらやめる。 なんだかんだいって愛されてはいるらしい。 昔からかわいがってもらっている。 どうやらモテないこともないらしく、中学の頃のように女の子の嫉妬もいただく。 「なんかモテるよね。モテてくれない人でいいのに」 「自分にある程度自信がなかったら、おまえみたいな女に手を出そうと思えない」 「隆太も自分に自信あるの?」 ちょっとからかうと、隆太は不機嫌な顔を見せて、窓から教室に入ってきた。 何か身の危険を感じて、私は隆太から距離をとる。 じりっと近づかれて、じりっと距離をとる。 「…なんで逃げる?」 「…手を出されそうで」 「法学部受かったら、絶対におまえで童貞捨ててやる」 え?したことない? あんなにモテてるのに? なんてことに気を取られて、私は腕を掴まれて、思わず悲鳴をあげそうになった唇は唇で塞がれた。 私の頭を押さえて、強く押しあてられる唇。 逃げられず、心をまた捕まえられてしまう。 唇が離れて、息をこぼしながら薄く目を開けると、満足気に目を細めて私を見る隆太の顔が見えた。 大好き。 心は縛られたまま。
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