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逃げ続けていたら、きっといつかは隆太も私を追うことなんてなくなるだろう。
隆太が女と二人でいる姿を見るたびに思いながらも、心は隆太のところに置いてしまいながらも、隆太に戻ることができなかった。
部屋の隅にうずくまって眠れない朝を待っているとメールがきて、私は夜中でも家を出る。
夜中にどこにいくのか聞いてくれるような親でもない。
父はずっと帰ってきていない。
離婚するなら、さっさとしてほしい。
母の八つ当たりの的になりたくない。
母は仕事も行かずに家に引きこもっている。
私は家にいたくない。
家を出てスーパーの横の自販機が並んだ明るい場所まで歩くと、私の今の彼氏である山瀬がいる。
私は何も言わずに山瀬の近くまでいって、ぎゅっとしがみつくように抱きついた。
山瀬は私の頭を軽く撫でてくれる。
誰かに甘えていたいだけ。
誰かに寄りかかっていたいだけ。
誰かにふれていたいだけ。
優しいから都合のいい男になってくれる。
しばらく抱きついていた。
人が通りかかっても顔を山瀬の胸に埋めて。
山瀬の手は私の背中を私が満足するまで、ただふれてくれている。
あったかくて気持ちよくて落ち着く。
ずっとかわいがってはくれている。
「……ねぇ?さよならってまだ言わないの?もう文化祭も終わったよ?」
「俺に別れたいって言う理由ない」
「夜中に呼び出してる」
「起きていたらいくらでも。家、すぐそこだし。持って帰って抱き枕にして寝ようかな。千香に抱きつかれていると気持ちよくて眠くなってきた。いこいこ」
「山瀬の家族に睨まれたくないってば」
「寝てる、寝てる」
山瀬は私の額に唇を当てて、私を抱き上げて無理矢理運ぼうとして。
私は笑って山瀬の体にしがみつく。
「あ、なんか飲み物買ってく?」
山瀬は財布を取り出して自販機に小銭を入れる。
「本当にいくの?山瀬の家」
「エッチしていい?」
山瀬を軽く睨むと山瀬は笑って、私にジュースを渡してくれる。
「しないって。…保証しないけど」
「他の子としてる?」
「容認する言葉は聞きたくないから言わない。たまには他の女に手を出してんなって殴れよ」
してるんだなと思う。
山瀬の腕にくっついていると、私はお持ち帰りされた。
抱き枕。
浮気しまくりの優しい彼氏の腕は私をただ包んでくれるだけ。
それだけの関係を私は納得させてしまっている。
つきあっているけど…、ただの友達。
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