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好き。
山瀬は何度も言ってくれる。
いつものようになった山瀬の家。
「好き…、千香、好き…」
恥ずかしいくらいに何度も言って、私の体を撫でる。
抱き枕のはずなのに、私の服は脱がされて、背中から山瀬の息がかかる。
誰かもそうやってこの腕は抱くのだろう。
私はとうとう、そこと同じものになるだけだ。
平手打ちで突き放したら、今のこの居場所を失いそうで。
だけど、胸の中が痛くて、涙だけぽろぽろ溢れた。
「好き…。千香…」
山瀬の手は私を転がして、私を体の下に敷く。
目が合って。
私は目を閉じる。
「…千香、なんで泣く?嫌なら平手打ちでいいってっ。…好きだから…、それだけっ」
私は頷く。
だけど痛い胸は痛いばかり。
山瀬の手は慌てたように私の服を私の体に当てて、両手で私の顔を拭う。
「…嫌わないから。大丈夫。セックス…したいんでしょ?」
「…ごめん。もうしない。前みたいにセクハラって言ってくれればいい」
「今はつきあってる…よ。たぶん」
「つきあってるっ。たぶんじゃないっ」
「……うん。だから…大丈夫」
気持ちいいこと…とは思えそうにないけど、大丈夫。
私は山瀬の背中を抱き寄せる。
「…もうちょっと、ゆっくり待つ。千香から抱きついてくれるようになって、首だけどキスしてくれるようになったから。待てる」
ねぇ?他に遊べる相手がいて、それは待ってるなんて言わないんじゃないかな?
思ったけど、言わなかった。
山瀬との別れは、それからほんの数日といったところで。
もうすぐ冬休みっていう頃に、私の前にその浮気相手が出てきた。
1つ下の学年の子。
隆太が文化祭の前に話してた女の子だ。
教室のゴミ箱を焼却炉に運んでいる途中で声をかけられた。
「山瀬先輩といい加減、遊ぶのやめてくれませんか?山瀬先輩は私の彼氏です。あなたが後からきたんです」
「…意味分かんない。私のほうが浮気相手なの?」
聞いてみると、その子は頷いた。
「放っておけない昔からの友達だからって、山瀬先輩はあなたとつきあったふりをするって言ってました。でも、秋くらいから山瀬先輩、あなたにばかり構って、私に全然構ってくれなくなったんです。私のほうが本命だって言ってくれるけど…」
嘘をついているようには思えない。
泣きそうになってる。
待ってる…か。
私は山瀬が私に言った言葉を頭の中で繰り返す。
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