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私はどうしてこうも女に恨まれてばかりなのだろう。
「…わかった。さよならってメール入れとく」
私はその子に答えてあげる。
その子は俯いていた顔を上げて私を見る。
「知らなかったの。ずっとごめんね。山瀬とはキスもしていないつきあいだから友達。山瀬が言ったことはたぶんまちがっていない。秋くらいから私が甘えすぎになっちゃっただけ。もう甘えないから」
「……そんなに簡単なものなんですか?先輩は山瀬先輩のこと好きじゃないんですか?」
「私にしてみれば、山瀬はつきあったときから他の女と遊んでいた。…そういうことかってわかった。
山瀬と別れないって言われるよりうれしいでしょ?」
「でも…、山瀬先輩、たぶん…、私より先輩のこと好きになって…」
その子はとうとう泣き出してしまった。
私が虐めたみたいだ。
私はその場で携帯を手にして、山瀬にさよならとメールを送った。
送信画面を眺めて、これだけで終わるものなんだと思う。
けっこう長いつきあいだったはずなのに。
呆気ない。
「メール送った。終わったよ?」
「なんでそんなにあっさりなんですかっ?私、喧嘩するつもりできたのにっ」
「……友達だから」
喧嘩する理由も私にはない。
喧嘩は嫌い。
聞きたくもない。
私は焼却炉に向かって歩く。
後ろからいきなり突き飛ばされて、持っていたゴミ箱の中身をぶちまけてしまいながら転んだ。
走って逃げていくような足音に振り返ると、さっきの子が逃げていた。
ひどいと思う。
私は彼女の望みを叶えてあげたというのに。
「いた…っ」
思わず声をあげながら体を起こして、擦りむいた膝を見る。
ぶちまけてしまったゴミをゴミ箱に入れて、水道のところまで歩いて、靴下を脱いで足を水で洗う。
冷たい。
ちょっと寒い。
「千香」
名前を呼ばれて顔を上げると、隆太がこっちに向かって歩いてきていた。
隆太はたぶん文化祭の前、あの子と話したときからすべて知っていて、何も言わなかったのだろう。
私も聞かなかったし。
「隆太、ハンドタオル持ってる?」
甘えて聞いてみると、隆太はハンドタオルを出してくれる。
私はありがたくハンドタオルを使って足を拭かせてもらう。
「貸して」
言われてハンドタオルを渡すと、隆太は私の足を拭いてくれる。
「どうした?これ」
「転んだ」
「受験生に禁句使うな」
言われてみればそうだ。
「次は落ちてみる?」
「俺に?」
もう落ちてる。
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