Chain

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落ちると言えば…。 私は校舎の屋上を見上げる。 落ちたら…死ぬ…よね。絶対。 …生きていて何をするんだろう? 自分の母親の姿を浮かべて、ああなっていくのかなと思う。 「…無視って一番ひどくないか?」 隆太は不満そうな顔を見せて言ってくれて、私は笑う。 友達…だから。 隆太ともこれは友達ってやつだ。 私の携帯がポケットの中で震えて、私は携帯を手にする。 山瀬からの着信。 出るべきか、出ないべきか。 理由を聞かれて、その彼女に直接言われた…なんて、ちょっと言いたくないかもしれない。 どうせなら、ずっと騙されていたい。 優しい…人だったから。 電話に出られずにいると、一度着信は切れて、また電話がかかってくる。 心のどこかでは別れたくないって言ってくれることを期待して、理由なんて考えるんだろう。 さよならと声にされたほうが淋しいかもしれない。 思わず涙が目に浮いて、それを拭う。 私の手の中の携帯は隆太が手にして、その電話に出た。 隆太は黙って携帯を耳に押し当てて。 私のほうをちらっと見る。 「……彼女公認の二股で彼女じゃないほうに気持ちを寄せすぎた…ってところ?」 隆太はやっぱり知っていて、山瀬にそんなふうに言ってくれちゃう。 嘘でもいい。 騙しとおしてくれて構わない。 私は手をのばして隆太から携帯を奪おうとして、隆太は避けてくれる。 「返してっ」 「……」 隆太は通話を切って私に携帯を返してくれた。 なんかひどい。 山瀬が何を言ったのか一言も聞いていない。 私からかけていいのかわからない。 「……なぁ、千香。寄りかかるだけの相手、なんで俺じゃダメだった?」 隆太の言葉に携帯から隆太へと視線を向けると、隆太は私を真剣な顔で見ていた。 わかってる。 隆太も私のわがまま聞いてくれる。 会いたいって言えば、きっと来てくれる。 隆太は受験を後回しにしてしまう。 そんなの理由にならないって言う。 嫌われたくなくて逃げたなんて言ったら、嫌わないって言う。 わかってる。 「……甘えすぎてしまうから」 「そんなの迷惑なんて思わない。山瀬と別れたなら、俺ともう一回つきあって。俺の彼女になって」 「…法学部合格したら」 「それは受かる。絶対受かる」 「まだ受けてもいない。自信持ちすぎて落ちるんじゃない?」 「条件つけるんじゃなくて、おまえの気持ちでたまには言えよっ」 …好き。 でも言ってやらない。
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