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誰かに言われたこともないけれど、自分の中の劣等感と、隆太にあるものへの憧れと。
私と隆太は似合わないって思う。
痛くて、痛くて、座り込んでいたら足が痺れて、そのままそこにお尻をついた。
私の携帯が手の中で震えて、見てみると山瀬からの着信だった。
手の甲で涙を拭って、今度は迷うことなく出た。
『…千香?』
「……うん。もう隆太いない」
『……ごめん。……千香にとって、俺は加藤から離れる手段だってわかっていた。だから…、彼女いてもいいやって思ってた』
「…うん。ありがとう。別に恨んでないよ。…私のほうこそ、ごめんね。知らないのをいいことに甘えすぎて」
『甘えてくれたの…うれしかったし…、俺が調子にのっただけ。
……加藤と戻るのか?』
山瀬はどこまで私を理解してくれているのだろう。
隆太から離れるためだけ…なんて、わかっていて。
馬鹿。
「さっき振っちゃった」
『加藤はずっと千香のこと待っていたと思うけど?』
私は目を閉じて、今日までの隆太のことを思い出す。
待っていた…かもしれないけど。
「女の子を一度も寄せ付けない態度でいてくれたのなら認める。…でも、隆太はそんな人でもないよ」
待っていてくれなくてもよかったし。
それでいい。
私だけを望んでくれている人なんていない。
それが正しい言葉のように思う。
私は、私だけと態度を見せて待っていると思えるのかもしれない。
…いないけど、そんな人。
「隆太、モテるし。山瀬もモテるし。…次、つきあうならモテない人がいいかも」
『モテているつもりない』
「彼女もう一人いるのに?」
『……会おう?千香。そこで話す』
「何を?もう別れ話は終わったでしょ?」
『千香とだけ…つきあいたい』
そう言ってくれることを望んでいたかもしれない。
泣きそうになったのはうれしいからだ。
その気持ちだけでじゅうぶんだ。
「ありがとう。でも…、もういいよ。隆太ももう追ってくれることもないから」
『違うってっ。俺の気持ちっ。千香が好き。だから会おう?今、どこ?行くから。すぐに行く』
「彼女泣かせたら、私、山瀬のこと嫌いになるよ?」
『……会いたい』
会って、好きだって言われまくって…。
押されまくるのも…嫌かも。
私は我が儘だね。
「……私は山瀬のこと、友達以上に思ったことないよ。…ごめんね」
そう言って電話を切った。
本当は…、本当に…私だけなら…惚れた。
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