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初めて隆太の腕の中で眠って、初めて眠っている隆太の顔を見た。
じっと見ていると隆太は眩しそうに目を開けて、私を見ると私を抱き寄せてまた眠る。
私は隆太の腕の中で大きく伸びをして、また少し眠った。
ぐだぐだ眠って、起きると隆太は隣にいなくて。
隆太の姿を探すように体を起こすと、隆太は身嗜みを整え終わって、私の服を手にバスルームのほうから戻ってくるところだった。
「おはよ」
「おはよ。服、乾いてる。顔洗って着替えたら出るか」
「うん」
私はあくびをひとつして、ここがラブホということも半分忘れて朝の身支度。
のんびりしていて快適で過ごしやすい空間のように思う。
「……ぱんつ見えてる」
言われて、借りていた隆太のシャツの裾を少し引っ張る。
隠れそうにない。
もういいやと開き直って、隆太から服を受け取って着替える。
隆太の視線を感じて目を合わせると、隆太は無言で私をベッドに座らせて。
胸に顔を埋めようとしてくるから、その頭を軽く叩く。
「だって、そういうことした気がしないっ」
「した。…もう痛くないけど、した」
「……部屋に入って、5分くらいしかしてないっ」
「でもした」
「したけど、…してもらった…けど、俺が千香の体、あんまりさわってないっ」
隆太の手を握って、その手を少し眺めたあと、胸にふれさせてみた。
隆太の手が動こうとして引き離す。
「……まだチェックアウトの時間じゃない」
隆太の手は私の背中にふれて、膝がベッドに乗りかかる。
朝の光りで隆太の顔がよく見える。
「彼女いるくせに」
「…別れたら?」
「隆太が一人になるね」
「違うだろっ、それっ。おまえ、何度、俺に言わせるんだよっ?」
つきあいたい。
彼女になって。
そう言ってくれるのだろうか。
言われて、うれしいのに痛い私の心は隆太には見えないようだ。
「言わなくていいよ。彼女と仲良くすればって言ってあげた」
「別れるっ。千香が何を言っても別れてやる」
「別れなくていいんじゃない?私は…隆太を振ったよ」
「……何度、おまえは俺を凹ませる?」
「隆太が何も言わなきゃいいんじゃない?」
言ってあげると、隆太は何も言わずに私を抱きしめる。
私はその体に顔を擦り寄せて甘える。
届いてる。聞こえる。その鼓動。
私に見せてくれるうれしそうな顔。
だからよけいに愛しくなる。
嫌われたい。
嫌われたくない。
行ったり来たり。
ただ、大好き。
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