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隆太からメールがきて、別れたと言われても、返信することができなかった。
隆太といるとうれしいと思うこともたくさんあるけど、うれしくないこともたくさんある。
会いたいと言われても、返信できなかった。
毎日は何もないようで何かはある。
山瀬にも偶然会って、ドラムしてと誘われまくって、ドラムをまた始めたり。
男友達ばかり増えて、つきあってはいないけど、家に数日帰らなかったり。
久しぶりに家に帰って、まっすぐに自分の部屋に入って、お風呂でも入ろうかと思っていた。
隣の部屋からテレビの音は聞こえてくるけど、何か気になって。
隣の部屋を見てみた。
そこにいるはずの見慣れていたはずの母は、いつから敷きっぱなしになっているのかわからない布団の上で、ゴミの山の中で知らない物体になっていた。
姉と父に連絡した私は自分でも冷酷だと思えるほど冷静にどうすればいいのか聞いていた。
姉も父も冷静だった。
自分をひどく冷たい人間だと思うのに、姉も父も私以上にひどい人間のように思えた。
母が亡くなって、私は一人暮らしをすることになった。
初期費用と家賃は親の脛かじり。
好きな部屋を決めてくると、何年顔を見ていなかったのかわからない父が契約を進めてくれて、私は持っていく荷物をまとめる。
私が持っていかなかった荷物はゴミとして捨てられて、この部屋は解約される。
実家と呼べるものはなくなるということだろう。
何を思えばいいのかわからなかった。
何を考えればいいのかわからなかった。
あれだけ嫌だった人はもうそこにいない。
小さい頃からあった箪笥も持っていかないから、そのうち捨てられるのだろう。
和箪笥を開けて持っていくものがないか見ていたら、小さい頃の写真が出てきた。
なんだか幸せそうな私の記憶にない家族旅行の写真。
もっと和箪笥を探ると、小さい頃に着ていたかなっていう浴衣なんかも見つけた。
母と手を繋いで夏祭りにいったような気がする。
母が亡くなって1週間以上過ぎてから私は泣いた。
誰も振り返ってくれなくなって、母は自殺した。
私がここにいたはずなのに。
死後3日以上過ぎていた。
私しか見つけてくれる人もいなかった。
私を含めて。
みんな、自分のことで精一杯。
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