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「私は隆太の恋愛を破壊するためにあの部屋に住んでいるわけじゃありませんっ」
「まだつきあってないとも言える。つきあいたいって言われてるだけ」
「泊まったくせに」
「……誘われまくって彼女もいなくて断る理由もなかったんだよっ。嫉妬するなら、千香が俺を捕まえていろっつぅのっ!」
「嫉妬なんてしていません」
さらっと言ってやると、隆太は怒った。
私は逃げるように歩き出して、隆太は車を降りて追いかけてきた。
走って追いかけてくるから走って逃げて、朝からなぜか全速力で走らされている。
ヒールじゃうまく走れなくて、隆太の腕は私を捕まえた。
「捕獲っ。もうおまえに醜態晒しまくりでどうでもよくなってきた。聞けよ?千香が目の前にいるのに、他の女を見ろって言われても無理。なんか刷り込み現象。たぶんこれ、一生変わらない気がする」
「どこの鳥ですかっ。私は親じゃありませんっ」
「初めてつきあった女。……あ」
隆太が顔をあげて、釣られるように顔をあげると、電車が走っていくのが見えた。
慌てて時計を見ると、あれがいつも乗っている電車のようだ。
遅刻…。
隆太の顔を見る。
「……車で送るってっ」
「隆太も学校あるんじゃないの?」
「……あんまりいってない。家でゆっくり寝ようと思ってた」
このお坊っちゃん、やっぱりなにかがムカつく。
隆太に車で送ってもらうことになって、なぜか助手席に乗せられて。
職場まで隆太に知られてしまった。
余裕で遅刻は免れた。
「帰り、何時?迎えにくる」
「彼氏じゃない。それより法学部合格だけ?司法試験受からないと法学部の意味ないじゃない」
「って、親と同じ弁護士目指せって意味か?司法試験なんて無理。卒業はできるからそれで勘弁して」
「司法試験受かったらつきあう」
「レベル高すぎっ。…そのうち。ただ、受かったら結婚って年齢になっていそう…」
「じゃあ、結婚。弁護士の妻って専業主婦できるんだよね?」
「俺の親がしてるだけ。……帰り、メールする。学校いってくる」
隆太は不服そうにしながらも言ってくれちゃう。
なんだか私に従順。
職場のほうへ歩いていこうとして振り返るとお見送りしてくれている。
…かわいい。
引き返して、ウィンドウ開けてもらって、隆太の額に唇を当てた。
…そして私はやっぱりこの人に簡単に引っ張られてしまう。
不満。
でも…、その満足したような顔を見せられると満たされる。
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