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わかってる。
だけど、痛い。
私への隆太の気持ちを踏み潰して消してしまったほうが楽に思える。
なんで…隣の部屋の住人なの?
隆太がそこに手を出したのが悪い。
…私が知らずにその部屋に入居しただけではあるけど。
考えなしの馬鹿でいたほうが楽かもしれない。
自分のことばかりでいればいい。
…どうせ自分の母の遺体も自分のことばかりですぐに見つけてあげなかったじゃない。
……私、自分を追い詰めるの得意なのかも。
しばらく黙ったまま。
隆太は私の手から鞄を受け取ろうとして、私は鞄を強く握る。
「……もう、私に会いにきてくれなくていい」
「…ほら、俺の気持ちを踏み潰す。俺は会いたいから来ているだけ。千香も俺といたいって思っているから、俺の家に泊まろうって思ったんだろ?」
「もういきたくない」
「……おまえな、キレるぞ」
「キレたら?」
「……わざと俺を怒らせようとしていやがる」
しています。
隆太の気持ち、感情的なほうが踏み潰せる。
「理由は?隣の部屋の住人か?バイトいったから帰ってくるまで待って、3人で話し合うか?バイト終わってそのまま遊びにいきそうだから、メール入れとく?」
隆太は携帯を取り出して、私はその手を押さえる。
「いらない。……もうこないで。職場にも近寄らないで」
「また振られるのかよ。俺が何した?ちゃんと学校いってるだろ」
理由は理由じゃないと隆太に言われそうで言えない。
中途半端に言うから、私も悪いんだろう。
中途半端な気持ちで言うから、私が悪いんだろう。
だって…好き。
甘えていたい。
隆太の手はさっき隆太が叩いた私の頭を撫でる。
怒って呆れてくれればいいのに。
「…わかった。けど、今度こそ、彼女つくらない。千香が会いたいときにメールして。待ってる」
「……彼女つくればいいじゃない」
「俺が惚れたらそうする。…千香も、惚れていない男とつきあうなよ?抱きしめられたいときは俺を呼ぶこと」
踏み潰しているのに、なんでこの人はこんなに優しいのだろう?
すごく気ままで我が儘かざしてあげたのに。
嫌ってくれない。
両腕を広げて隆太の顔を見上げておねだりすると、隆太はうれしそうに笑って、私の体をぎゅっと抱きしめてくれる。
好き。
大好き。
隆太のにおい。
その体温。
抱き寄せる腕の力。
すべて。
私の心を一瞬で満たす。
理由は理由じゃない。
女の子を泣かせてほしくない、なんて。
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