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部屋のインターホンが鳴る。
私は食事をつくる手を止めて玄関へ。
宅配が届いたのかなと誰か確かめることもなくドアを開けた。
そこにいたのは紫苑だった。
スギという高校の女友達の彼氏が、なぜか紫苑である。
同じ学校ではあったけど、スギと紫苑がつきあうとは考えたこともなかった。
そして、紫苑が私にこんなふうにかまってくることになるとも思っていなかった。
理由は一つ。
私が情けないくらいのダメ女だからだろう。
隆太と会わないようにして1年半。
どうでもいい恋愛をして、疲れて、紫苑に悪戯に甘えたのが始まりである。
もちろんスギから紫苑を奪うつもりもないし、ただ男友達として遊んでと絡んでいっただけ。
隆太の友達として知っていても、紫苑のこと知らないようなものだし、どんな人なのかなと。
見た目そのままに遊び人だったら注意でもしてやろうかと思っていて…
よくない方向にきている。
「だから大丈夫だってば。紫苑に哀れんでいただく必要はない。スギのところへ帰れ。ハウス」
私は紫苑に隆太との話をはっきり聞かせてあげながら料理。
なんか紫苑がよけいなことを考えてくれているみたいだったから、それの阻止もある。
「俺は犬かよ。んー、けど、隆太が千香に惚れてるのは当たっていたんだな」
紫苑は食器を出して並べてくれながら言う。
ちゃっかり自分のも置いている。
スギがバイトでいないときの紫苑の餌をあげてしまっている気がする。
料理、一緒に作ってくれるし、いい話し相手になってくれるし、あまり迷惑に思っていない私が厄介だ。
「それは知らない。でも隆太に男関係をあまり知られたくないし、怒られたくもない。スギは長年のいい友達だし泣かせたくないし、紫苑がここに出入りするのは微妙」
私はできあがった料理を器に盛りつけて、紫苑は炊けたごはんをよそって。
鍋を片付けている間に紫苑は食事を食卓へ運んでくれる。
いい旦那様だなとスギを思う。
一応、紫苑がここにきて何をしていたのかスギに事後報告をしている。
疑われたくもないし。
スギは紫苑を優しすぎる人だと言う。
お節介。お人好し。
そんなふうにも言えるけど、都合よく動いてくれる人を嫌いだという人も少ない。
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