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「千香、かわいいし。どうせ男いないし。知花がバイトいっている間は入り浸りしても不都合ないだろ。いただきまーす」
紫苑はお茶を淹れると椅子に座って、ぱくぱくとおいしそうに食べていく。
私は男のうれしそうな顔に弱いと思う。
本当の笑顔っていうのが好き。
紫苑が楽しそうな顔を見せてくれるから追い出せない。
よくないとわかっているのに甘い。
食事を終えて一服して、面倒だけど食器を洗って。
紫苑もぐったり休んでいたのに手伝ってくれる。
いい旦那様だなとスギを思う。
「風呂入っていっていい?」
「彼女の友達の家の風呂を借りるのはいかがなもの?」
「…風呂」
紫苑は駄々をこねる子供のように言って、私は苦笑いで紫苑にお風呂を貸してあげる。
たまにかわいいから更に甘い。
そう。かわいいのも好き。
紫苑に惚れたらどうしてくれようか。
私は紫苑に貸すバスタオルとタオルを脱衣場の洗面台においてあげる。
隆太が持ち込んだパンツや着替えもあるけど、それはさすがに出してあげない。
「お背中流しましょうか?」
からかうようにお風呂の扉の向こうに声をかけると、扉が小さく開いて紫苑が顔を見せた。
「…入る?」
ちょっと期待したように言わないでもらいたい。
私のほうが恥ずかしくなる。
「背中流してあげるだけ」
「…して?」
紫苑はうれしそうに笑ってくれる。
「しませんっ」
私は少し声を大きくして脱衣場を出る。
たまにドキドキさせられるから更に危険。
けっこうたくさんの人とつきあってきたほうだと思うけど、紫苑みたいなのも初めてのタイプかもしれない。
嘘と本気の半分半分。
私の受け取り方がどっちでもいいとしているのがムカつくところもあり…、微妙に弄ばれてる感じが気楽でいいと思うところもあり…。
でも私がノったら紫苑は受け入れそうだ。
本気でよくない男だと思う。
遊び人だなと紫苑を思う。
それでも遊ばれたいと思ってしまったりなんかして。
私は最低だと落ち込む。
ここは紫苑の思惑通りに隆太に会いたいとメールでもするべきかと悩んだりする。
隆太がいれば紫苑も私を気にかけたりしないだろう。
携帯を眺めて、隆太の名前を眺めて、ふれることなく携帯をおいた。
…もうきてくれない…かも。
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