584人が本棚に入れています
本棚に追加
/606ページ
泣き声が聞こえた。
隣の部屋から。
わざとじゃなくても、自分がしてしまったことを考えてしまった。
隣の部屋で隆太の声を聞きたくないよねと、隣の住人のことを考えてしまった。
それが隆太と離れた理由。
「千香のおかげで隆太がミクとつきあってやらなかった理由も見えてきた」
「かわいいのにね、隣の部屋の住人。知り合い?」
「俺の元カノ。俺はフラれて、ミクは隆太に乗りかえようとして、ミクは隆太にフラれた。ミクのこと尻軽と罵りやがった」
紫苑は隣の部屋の住人と隆太の話を教えてくれているようにも思う。
聞きたくないようにも思う。
私がいなければ…よかったのにって思うから。
お惣菜を買ってきて、部屋で飲みながらご飯。
私はビールの缶に唇を当てて、ぼんやりと隣の部屋の住人の姿を浮かべる。
「…私とあんまり変わらない。隆太が尻軽なんて罵るのは…ミクに嫌われようとしているだけじゃないかな?……嫌って離れてもらおうとしているだけ。気持ちがゼロでもないから」
私は隆太に連絡とっていないんだから、そんなことしなくていいのに。
私が隆太と会うタイミングをまちがえた。
どうしてこの部屋を選んでしまったんだろう?
私は疫病神かもしれない。
「千香が隆太の気持ちを想像するな。…ミクのやつ、ここに部屋借りていやがったのか。あの実家から抜け出して遊び歩いている気はしなかったけど」
「紫苑の元カノ、どんな子?」
「犬」
「答えたくないって意味?」
「そういうわけじゃないけど。実家はでかい。いわゆる社長令嬢。けど自由奔放。男遊びしまくり?バイトしてるって言ってたし、またカード止められたんだろ。たぶんキャバクラでバイトしてる」
なんだかよくわからない人。
だけどお嬢様。
隆太と似合わないこともないんじゃないかなと思う。
今更になるけど、隆太とあの子をくっつけることはできないかと考えてみる。
あの子、かわいいし。
隆太の好みだと思う。
紫苑の元カノっていうのは気に入らないだろうけど、それくらい乗り越えられないことはないだろう。
「……千香、おまえ、余計なこと考えてないよな?」
しばらく黙っていると、紫苑が聞いてきた。
「さぁ?余計なことになるのかな?」
「余計」
「隆太の知らない紫苑の男友達紹介してくれたらいいのにって思っていただけ」
「……それも余計」
最初のコメントを投稿しよう!