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「紹介してくれてもいいじゃない。いろんな人とつきあって、いろんな恋愛を経験して」
「燃える恋愛をしたいんだろ?」
「…一生懸命になってみたいかな」
初めて隆太とつきあったときが一番一生懸命だったかも。
その程度…とも思えるけど、私の一生懸命。
たった一人を追いかけていた。
燃えていたのかは不明。
だって終わらせたのは私。
買ってきたお酒がなくなって、まだ足りなくて、ぶぅと頬を膨らませて空き缶を転がす。
ふと時計を見ると、スギのバイトの帰宅時間だった。
「紫苑、帰らないと」
「飲酒運転、罰金はいや」
「泊まるわけにはいかないでしょ?電車で帰る?スギに電話入れる?」
「思いきりシラフだな。知花は今日から2泊、法要だとかで家にいない。…浮気する?」
紫苑はにっこり笑ってくれて、シャレにならない。
酔い潰れてしまえばよかった。
「駅まで送る」
私は立ち上がって家を出る準備。
「もうちょっと酒を仕入れにいくか」
紫苑も立ち上がってくれたけど、何かが違う。
「帰るんでしょ?」
「いや、仕入れ。なんなら、店いく?隆太のバイト先いく?」
なんの虐めだろう。
レンタル彼氏には時間制約が必要だ。
かなり思う。
「隆太に紫苑と一緒に会ったら泣かされるの私でしょ?また彼女持ちにちょっかい出すなって言われちゃうじゃない。…紫苑、変な我が儘言わないで」
紫苑が部屋を出ると鍵をかけて階段で下へ。
駅へ向かって紫苑と歩く。
案内するように少し前を歩いていると、私の腕は掴まれて、振り返る。
「コンビニ、こっち」
「……ねぇ?私が紫苑を襲ったらどうするの?どうにもできないのに、私にかまっていちゃダメでしょ?スギがいなくなるのはいやでしょ?
……紫苑が私に気をかけてくれるのはうれしい。だから他の男紹介して?それ以上は紫苑に望んだりしない」
私ははっきりと言ってあげるのに、このお節介な人は私の頭を胸に抱き寄せる。
甘えた気持ちが一気に溢れそう。
だけど相手は誰でもいい。
ここにいてくれる人なら私はそれでいい。
紫苑はだめ。
「カラオケの飲み放題でもいこうか?外でのオールならいいんじゃないか?」
一緒にいようとしてくれる気持ちがうれしい。
私はひどく淋しがり屋みたいだ。
甘えたで淋しがり屋で強がりで…泣き虫。
私は紫苑の服を握って、思わずこぼれた涙を紫苑の胸で拭ってやる。
たった一人、一生懸命になった相手が惚れた人は気になる。
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