Cry with pain

11/19

584人が本棚に入れています
本棚に追加
/606ページ
店に入ると、紫苑はまっすぐカウンター席へ。 私は店内を見ながら、紫苑についていく。 カウンターの中では隆太が私と紫苑に気がつく様子もなく、他のお客様の精算中。 団体様のお帰りのようで、けっこう忙しそうだ。 お店の中では1組がビリヤードをしているだけ。 「コウ、新しい彼女か?」 なんて紫苑は声をかけられている。 「だったら?」 「おまえの理想は高い。またかわいい子連れて」 「あれですよね。まわりにかわいいと言われると自分のことのようにうれしくて自慢したくなる。なんか手伝おうか?」 「グラス片付けよろしく」 なんて紫苑はバイトのように手伝い始めて、私はおいていかれた。 紫苑と同じように手伝うことにして、グラスをカウンターに運ぶ。 と、隆太が私に気がついていたようで、私を不機嫌に見る。 「…バーテンダーさん、グラス受け取ってください」 「……千香、おまえまたコウと遊んでるのか?」 怒ってる…。 紫苑がかまってくれてるだけだ。 なんて言っていいのかわからない。 「バーテンダー、仕事しろ」 紫苑はグラスを乗せたトレイをカウンターにおく。 「コウ、おまえもやめろって言っただろ。トモちゃんにそんなに嫌われたいのか?」 「うるさい」 「おまえが千香にかまうからだろっ。なんでおまえが千香にかまうんだよっ」 「店長、こいつクビにしていいんじゃないですか?」 紫苑はさっき話していた人に声をかけていく。 隆太は言い返したい言葉を堪えたようにグラスをカウンターの中に入れて、袖をまくって洗っていく。 紫苑と隆太の関係は私にはよくわからないところがある。 長年の友達ではあるのだろう。 足を引っ張りあったりもしそうな感じだけど、友達なのだろう。 紫苑はここの店員のように慣れたようにビリヤード台を綺麗にしていく。 私は紫苑に教えてもらってお手伝い。 遊びにきたのかよくわからない。 ラシャにブラシをかけながら、視線を感じてカウンターのほうを見ると、隆太がこっちを見ていた。 隆太は私から顔を逸らす。 ……せめて友達になりたかったかも。 そうすればもう少し気楽に話せた。 友達じゃない。 つきあってもいない。 ただの顔見知りだ。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加