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隆太と話せば怒られるのは目に見えているし、あまり近寄りたくない。
気まずいものがある。
ビリヤード台の掃除が終わると、紫苑はこの店の店長らしき人とビリヤードを始めて、私は椅子に座ってその様子をただ眺めていた。
ビリヤードをしている紫苑はかっこいい。
真似をしたくなる。
店長もなかなかかっこいい。
紫苑のほうがビリヤード上手いみたいだけど、ぼんやり眺めてしまう。
玉をポケットへ入れた店長と視線がぶつかって、どこか恥ずかしくなって目を逸らす。
紫苑に交代した店長は私の近くのお酒を手にして、私はちらっと店長を見上げる。
30代くらいだろうか。
隆太を紫苑に斡旋されまくるくらいなら、店長とつきあったほうがいいように思う。
「…なにちゃん?」
「千香です。なにさん?」
「人見」
「え?それ名前ですか?」
「人見裕司。名前です。千香ちゃんもビリヤードする?見ているだけなのもつまらないだろ?好きな台使っていいよ。俺のキューでよかったら貸すよ」
…いい感じの人かもしれない。
奥さんとか子供いそうだけど。
「教えてくれますか?」
「いいよ。こっちの台でやろうか」
人見店長は隣の台にいって、私はついていく。
前に紫苑に少し教えてもらったけど、もう一回キューの握り方から教えてもらって、人見店長を確認するように見ると、笑顔で頷いてくれる。
…うん。いいかも。
隆太の目の前でもあるから、大きくモーションかけられないけど。
人見店長に遊んでもらっていると、紫苑が人見店長に絡んできた。
「店長、俺とゲームしていたのに、なんで千香に手を出してんの?」
「かわいいから思わず。おまえには別の子がいるだろ。俺が簡単に騙されると思うな」
「……店長に千香を引き渡すのか。……だったら俺でいいだろって思うんだけど」
「千香ちゃんくれるのか?コウには彼女いるしな。俺が遊んであげる。うん」
なんだか私は何も言っていないのに、話がまとまりつつある。
紫苑の手から離れるのを淋しくも思うけど、それでいいと納得しているから何も言わないともいう。
だって人見さん、けっこういいと思う。
かっこいい。
どこか大人。
優しい。
笑顔もいい。
紫苑が男を紹介してくれたようにも思う。
なんて思っていたら、私の腕が掴まれて、振り返ると隆太がいた。
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