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「千香ちゃんを取り争っているのか謎な喧嘩を始めてやがるな」
人見店長も同じくウィスキーに口をつけて、隆太と紫苑のほうを眺める。
「……私はどうしたらいいと思いますか?紫苑には彼女がいて、甘えてはいけない場所だってわかっているんです」
「隆太とつきあってやれば?勤務態度いいぞ。コウがくると崩されまくるけどな」
「…また学校いってないんですか?隆太。お店って朝まで開いてますよね?」
「いや、いってるはずだけど。朝まで任せるのは翌日が休みの日だけだし。大学院に進学するつもりらしくて、まだ続けるって言ってもらってる。あんな喧嘩して、将来弁護士になれるのかってやつだよな。口が達者とも言い難いし、法廷で拳出そう」
「弁護士になるって言いました?」
「言ってたと思うよ。店が暇な時はひたすら勉強してるしな。おかげで俺も法律に詳しくなってきた」
司法試験…受かったら…。
私が言った…けど。
隆太はただちゃんと前を向いただけかもしれないし。
私は隆太と紫苑のほうを振り返る。
いつからか二人は蹴りあいなんてしていた。
まったく相手に当たらない。
いつまでも続きそうだ。
「…俺とつきあう?千香ちゃん」
不意に人見店長にそんな声をかけられて、私は驚いて人見店長のほうを見る。
少しからかったような笑顔を見せてくれていて、どう捉えればいいのかわからない。
「…戸惑ってる顔してる。そんな顔を見せたら、もっと押せば倒れるような気がするじゃないか」
「だって…。嫌ではないから…」
「そういう気があるのかと思わせる言葉も。ずるいな、千香ちゃん。男に追わせるのが得意そうだ。そういうのを嫌がる男もいれば、どんどん押したくなる男もいるし、そういう女に弄ばれたくなる男もいる」
「弄ぶつもりはありません。私…ずるいんでしょうか?前にも他の人に言われたことがあるんです」
「ずるい。イエスでもノーでもなく中間とってくるところが。嫌なら嫌とはっきりしたものでいいのに、はっきりとは言わない」
「…だって中間なんです。……押されたら…倒れます」
「押さなかったら倒れない。それって、つまり、相手の気持ちばかり求めているんじゃないか?千香ちゃんの気持ちは後回し。惚れてかわいがってくれるなら誰でもいい。惚れてと言ってみても、軽くすり抜けて本音を見せてくれない。…違う?」
「…当たってます」
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