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「本音をさらけ出せる相手はいないの?コウでも隆太でも」
私は身の回りの人を考えてみた。
姉や父も含めて、今までつきあってきた人すべても含めて。
頭を横に振った。
すべて本音。
だけど、きっと誰も私を知らない。
スギも知らない。
紫苑も。隆太も。
「王様の耳はロバの耳…って叫べる相手がいれば、千香ちゃんは変われるはずなんだけどな。女同士でもいいから、そういう相手をつくることから始めてみれば?」
「…人見さんはだめですか?つきあってみるって聞いたのは人見さんですよね?」
「かわしてる。…俺は秘密を共有してくれる女の子のほうが好きだな。つきあっても即別れが見えてるよ。コウも隆太も口はかたいほうだし、本音をさらすいい相手になると思うけどな」
見抜かれている。
なんだかまいってしまう。
確かに人見店長とつきあうとすぐに別れることになりそうだ。
私がどうしても怒らせてしまう。
浅いつきあい…しか、してこなかった自分のせい。
「紫苑はだめですよ。彼女いるし」
「じゃあ隆太で」
「元カレなんです。何度も振ってしまっています。もう戻れる気がしません」
「お。王様の耳はロバの耳ってやってる。もっとなんでも言ってみればいいよ」
「…嫌われたくないんです」
「嫌われてもいいんじゃないか?俺は千香ちゃんと今日初めて会って話しているだけの相手。千香ちゃんが店にこなければ二度と会うこともないよ」
そう言われても…と思う。
言えること、言えないこと。
誰かには言えて、誰かには言えないこと。
誰にも…言えないこと。
「俺には言えないと思うなら、俺と千香ちゃんはつきあうべきじゃないんだ。誰なら言える?」
俯いて、その相手を探しまくった。
隆太が浮かんだ。
言える…じゃなくて。
もしも知ってもらうのなら、隆太がいい…なんて思った。
私はずっと隆太に甘えているのだろう。
嫌いと口にされなければわからないくらい。
最後に浮かぶのは隆太しかいないのかもしれない。
嫌いと言ってもらうために…、私を知ってもらう?
…違う。
それでも私が好きだと言ってもらいたいのが一番の気持ち。
それでも…、私を受け止めて欲しい。
受け止めてもらえる自信がなくて、また言葉をなくす。
わかっているのに。
巡るばかり。
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