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「コウはああいう奴だから、おまえが落ち着かないと。誰でもいいから始まってもいいから、他を見つけろ。おまえなら簡単に見つけられるだろ。コウじゃなくてもいいだろ」
諭されているのだろうけど、わかっているけど。
私はまた泣いてしまった。
涙が勝手に溢れて、こぼさないようにがんばってみても、ぽとりと座った足の上に落ちた。
かっこ悪いと自分のことを思う。
紫苑に甘えていたのは確かで、迷惑顔を見せてみてもかまってくれるのがうれしかったのは確かで。
咎められるのはよくわかってる。
隆太に咎められると…かっこ悪いと自分を思う。
隆太を振って何をやってるんだかって思う。
それと同時にまた過去を思ってしまう。
涙が止まらなくて拭いまくっていると、隆太はハンドタオルを差し出してきて、私は頭を横に振って、涙をなんとか止めようとがんばってみる。
私の頭にふれる隆太の手。
優しく撫でてくれるから涙は止まらない。
「……コウに惚れてた?」
頭を横に振って応えた。
声が出ない。
口を開けば嗚咽をあげてしまいそうだ。
「……泣きすぎ。俺、そんなひどいこと言った?」
また頭を横に振って応えた。
「ごめん。千香に幸せでいてほしいだけ。コウにやめろって言っても、じゃあおまえが千香を燃やしてやれって言うばかりだし。…悔しいから、千香にフラれまくってるのは俺、無理だなんて言えなくて…。おまえが自分でどうにかしてくれるしかない。
いいって思うやついないのか?職場とかで。いなかったら…紹介…するし」
紹介…。
友達…なのかも。
友達にならなれる…?
……痛い。
心の奥。
……王様の耳は…。
私は顔を上げて、私を心配そうに見ていた隆太の視線に目を合わせた。
飛べない黒い羽。
あなたに堕ちたまま。
唇、開いて。
声を出そうとしても出なくて。
心だけ伝えたい言葉で溢れて、涙になってこぼれた。
「……こう?」
隆太は何も言ってないのに、私の背中に腕を回して抱きしめてくれた。
ぎゅって私の背中を抱きしめてくれる。
隆太の背中に腕をのばして抱きしめた。
力いっぱい抱きしめてみた。
「…ちょっと苦しい…。…落ち着いた?」
隆太は私の頭を撫でて、耳元優しく声を響かせる。
うん。落ち着いて…ドキドキして…。
気持ち、また溢れてくる。
「……好き。……ずっと…」
誰とつきあっても。
誰と一緒にいても。
ここにいるあなたが一番好き。
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